人が亡くなったときに必要となる行政・社会的な手続き(税務を除く) —いざというときに慌てないための実務ガイド—
1.導入:いざという時に「何から始めるか」が分からない
ご家族や身近な方が亡くなったとき、多くの人が直面するのが「何を、どこに、いつまでに届け出ればいいのか分からない」という戸惑いです。
税金の申告や相続の話はよく耳にしますが、その前段階として必要となる行政手続きや社会保険・年金・公共料金の対応は、思いのほか煩雑です。
特に、企業経営者やバックオフィスの担当者は、社員や役員のご家族から相談を受けることもあります。制度を正確に理解しておくことは、業務上の支援にも役立ちます。
2.制度解説:死亡届を起点とする一連の手続き
人が亡くなったときの最初の手続きは「死亡届」です。これは戸籍法第86条に基づく届出で、死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村役場へ提出する必要があります。
医師が発行する「死亡診断書(または死体検案書)」を添付し、届出を行うと「火葬許可証」や「埋葬許可証」が交付されます。ここから、葬儀・火葬・埋葬の手続きが始まります。
続いて重要なのが、健康保険・年金・各種社会保険の資格喪失届です。
国民健康保険加入者:市区町村役場へ「資格喪失届」+「葬祭費(3~7万円)」の申請
社会保険加入者:勤務先を通じて健康保険組合等へ「埋葬料(5万円)」の請求
年金受給者:年金事務所へ「年金受給権者死亡届」提出、未支給年金の請求手続き
これらはいずれも14日以内が目安とされます。
3.実務上の判断軸:名義・契約・デジタル資産も忘れずに
行政手続きに加えて、実務上は「名義変更・解約・資産確認」も同時並行で行う必要があります。
主な対象は以下の通りです。
| 区分 | 主な対応先 | 注意点 |
|---|---|---|
| 公共料金・通信 | 電気・ガス・水道・携帯電話・インターネット | 解約や名義変更の連絡を速やかに |
| 金融機関 | 銀行・証券会社 | 預金は死亡届により凍結されるため、相続手続きが必要 |
| クレジットカード・保険 | 各社窓口 | 自動引落しの停止・保険金請求を忘れずに |
| デジタル資産 | スマートフォン・SNS・クラウドサービス | ログイン情報の管理・削除手続きを家族が行う必要あり |
特に近年は、スマートフォン内に契約情報・電子通帳・写真・SNSなど、個人の「デジタル遺産」が集中しており、適切な引き継ぎが課題となっています。
4.よくある誤解と修正
誤解①:「死亡届を出せば年金も自動で止まる」
→ 年金受給権者死亡届を別途、年金事務所へ提出しないと支給が継続されてしまうことがあります。誤解②:「口座は相続人が自由に引き出せる」
→ 死亡が確認されると銀行は預金口座を凍結します。遺言書や遺産分割協議書に基づいた正式手続きが必要です。誤解③:「保険会社が自動的に連絡してくれる」
→ 生命保険金や共済金の請求は「申請主義」です。放置すると時効(3年)により受取れない場合もあります。
このような「思い込み」や「連絡漏れ」により、後日トラブルになるケースは少なくありません。
5.現場で役立つチェックポイント
葬儀から1か月以内に整理しておくべき主要な手続きを、以下にまとめます。
| 時期 | 手続き内容 | 提出先 |
|---|---|---|
| 死亡当日〜7日以内 | 死亡届、火葬許可証の交付 | 市区町村役場 |
| 葬儀後〜14日以内 | 健康保険・年金の資格喪失届、葬祭費・埋葬料請求 | 市区町村・年金事務所・勤務先 |
| 1か月以内 | 保険金・弔慰金・未支給年金の請求、公共料金・通信の名義変更 | 各契約先 |
| 3か月以内 | 銀行・証券・ローン契約などの解約・相続関連手続き | 各金融機関 |
| 随時 | デジタル資産(スマホ・SNS等)の整理 | 各サービス事業者 |
必要に応じて、葬儀社や行政書士、社会保険労務士などと連携することで、家族の負担を軽減できます。
6.まとめ:制度理解が「安心」につながる
人が亡くなったときの手続きは、税務や相続以前に、生活上・社会的な整理が欠かせません。
葬儀後の短期間に多くの届出や名義変更を要するため、**「誰が、どの窓口に、いつまでに」**を把握しておくことが、混乱を防ぐ第一歩です。
事前に家族で情報を共有し、必要書類(保険証・年金手帳・通帳・マイナンバーカードなど)をまとめておくことで、万一の際も落ち着いて対応できます。
外注費に対する源泉所得税の取り扱い|実務上の判断ポイントと注意点
はじめに|「外注=源泉不要」と思っていませんか?
近年、中小企業や個人事業者において「業務委託(外注)」という形態での人材活用が一般化しつつあります。
その一方で、外注費にかかる源泉所得税の処理を誤る事例も増加しています。
「個人事業主だから源泉は不要」
「契約書に“業務委託”とあるから大丈夫」
このような判断は、税務リスクにつながる可能性があります。
本記事では、外注先に対する支払いにおける源泉所得税の基本的な考え方と、実務での判断基準、注意点について、制度的根拠とともにわかりやすく解説します。
1|源泉所得税とは何か?制度の基本を確認
まず、「源泉所得税」とは、所得税法に基づき、報酬・料金などの支払者が、税金を“あらかじめ天引き”して国に納付する仕組みです。
個人に対して以下のような報酬を支払う場合、所定の税率で源泉徴収が必要になります(所得税法204条・205条)。
■ 主な対象例(外注報酬のうち源泉対象となるもの):
| 報酬の種類 | 源泉徴収の要否 | 主な税率(2025年現在) |
|---|---|---|
| 原稿料・講演料 | 必要 | 10.21% |
| 弁護士・税理士・社労士等の報酬 | 必要 | 10.21%(一定条件で5.105%) |
| デザイン・IT業務などフリーランス委託 | ケースによる(後述) | 多くは10.21% |
| 交通費の実費支給(領収書あり) | 不要 | - |
※ 上記は支払先が個人の場合。法人であれば原則源泉不要です(例外あり)。
2|外注費と給与の違い=源泉の分岐点
源泉徴収の必要性は、「外注費(業務委託)」か「給与(雇用)」かの区分によって決まります。
外注費として処理できる条件は、主に以下の通りです:
✅ 外注費として扱える要件(実態に基づく判断が重要)
業務遂行の指揮命令を受けていない
勤務時間・場所などに拘束されない
納品や成果物の完成をもって報酬が発生する
自己責任・自己裁量で業務を遂行している
他の顧客も抱えている(専属でない)
反対に、業務の指示や拘束、継続的な勤務関係があると判断されると、
“給与”と見なされ、源泉義務・社会保険対応・雇用保険などが必要になります。
3|よくある誤解とその修正
❌ 「契約書に“業務委託”とあるから外注扱いでOK」
→ 契約書の文言よりも、実態で判断されます。
形式だけ業務委託にしていても、実質的に「指揮命令下にある」なら給与扱いです。
❌ 「相手が個人事業主だから源泉不要」
→ 個人事業主でも、「報酬・料金の支払調書」に該当する業種であれば、源泉対象です。
たとえば、フリーのカメラマンやデザイナーなどは、条件によって源泉が必要です。
4|実務対応|確認すべきチェックポイント
実務での対応を誤らないために、以下の視点でチェックをおすすめします:
✅ 支払先は個人か法人か
✅ 支払内容が「役務提供型」の報酬か
✅ 業務の実態(指揮命令・勤務時間の拘束など)はどうか
✅ 契約書に源泉税処理の記載があるか(ただし実態が優先)
✅ 過去に税務署や年金事務所から指摘された経緯があるか
5|源泉所得税の納付期限と事務対応
源泉徴収をした場合、翌月10日までに納付する義務があります(所得税法183条)。
支払が多くなる12月や賞与時期は特に注意
e-Tax・ダイレクト納付による対応も可能
源泉徴収簿・支払調書の整備を忘れずに
👉 源泉漏れが発覚した場合、加算税・延滞税・不納付加算税が課される可能性があるため、
「うっかり」では済まされません。
まとめ|「適正な処理」が経営の信頼と継続性を守る
外注先への支払いは、契約や取引の自由度が高い反面、税務リスクの“火種”にもなりやすい領域です。
制度を理解し、実態に即した判断と処理を行うことで、
税務調査でも自信をもって説明できる体制が整います。
「この処理で合っているか分からない」
「過去の契約も見直したほうがいいかも…」
そう感じたときは、どうぞ遠慮なく専門家へご相談ください。
【令和7年分】国税庁「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」が公開されました
年末調整|令和7年分
年末調整をもっとスムーズに。国税庁の無償ソフトで控除申告書をかんたん作成。今年(令和7年)は基礎控除の引上げなど所得税の見直しがあり、提出書類や給与計算にも影響します。本記事ではソフトの使い方と改正点、実務の注意点をまとめました。
年末調整控除申告書作成用ソフトウェアとは
国税庁が提供する無料ツールで、パソコン・スマートフォンから「扶養控除・保険料控除・住宅ローン控除」などの申告書を対話形式で作成できます。入力内容は自動計算・自動チェックされ、PDF印刷やデータ提出(勤務先対応時)が可能です。
主な機能
- 質問に答えるだけで控除申告書を自動作成
- 生命保険等の控除証明書データ(XML)を取り込み
- マイナポータル連携で証明書データを一括取得
- PC/iOS/Androidに対応(最新版の動作環境をご確認ください)
こんな方におすすめ
- 書き間違い・転記ミスを減らしたい従業員
- 書類回収・差戻し対応を減らしたい人事・経理
- 電子データで保管・管理したい企業
※ 勤務先の受入可否(データ提出・PDF様式)は事前にご確認ください。
導入メリット
- 時短:入力案内+自動計算で作成時間を短縮
- 正確:記入漏れ・桁誤り・控除漏れを自動検出
- 効率:控除証明書データの取り込みで手入力を削減
- 柔軟:紙提出/データ提出の両方式に対応
令和7年の所得税改正:ここに注意
今年は所得控除の見直しが実施され、年末調整・給与計算に影響します。主なポイントを表にまとめました。
| 論点 | 改正の要旨 | 実務への影響 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 控除額が48万円 → 58万円に引上げ | 全員に影響。年末調整の自動計算値が変わるため様式・システム更新を確認 |
| 給与所得控除 | 最低保障額が55万円 → 65万円に | 源泉徴収税額表が変更。12月支給分以降の税額計算に注意 |
| 扶養・配偶者控除の所得要件 | 合計所得金額要件が48万円以下 → 58万円以下に緩和 | 対象者が増える可能性。申告書の該当有無を再確認 |
| 特定親族特別控除(新設) | 19~22歳の学生等を対象に親が一定額を控除 | 該当者は新様式の申告書提出が必要。周知を |
| 適用タイミング | 原則、令和7年12月以降支払の給与から新制度適用 | 11月まで旧表、12月以降新表という二段階運用に留意 |
※ 詳細要件・経過措置は最新の法令・通達・国税庁情報で最終確認してください。
基本の進め方(ソフト活用フロー)
- ソフトを準備:国税庁の特設ページからPC版/アプリ版を入手
- 証明書を集める:生命保険・地震保険・住宅ローン等の控除証明書(できれば電子データ)
- 入力する:質問に沿って入力し、控除証明書データ(XML)を取り込み
- 申告書を出力:PDFに保存し、勤務先の指示に従って紙/データで提出
- 提出後の確認:差戻しや記載不備がないか、給与担当からの連絡をチェック
チェックリスト(企業・従業員)
企業・人事労務ご担当者
- 年末調整ソフトの受入方針(データ可否・PDF様式)を決定
- 給与計算システムの改正対応(基礎控除・給与所得控除・税額表)を確認
- 新設特定親族特別控除の周知と申告書回収体制を整備
従業員のみなさま
- 控除証明書は電子データでの取得を推奨(マイナポータル連携が便利)
- 家族の所得状況を確認し、扶養・配偶者控除の要件に該当するかチェック
- 19~22歳の子がいる場合、特定親族特別控除の対象可否を確認
- 早めに入力・提出し、差戻しを防止
参考リンク(公式)
- 国税庁|年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年末調整特設ページ)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm - 財務省|令和7年度 税制改正(概要)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/
※ 本記事は一般的な情報提供です。個別事情により取扱いが異なる場合があります。適用にあたっては税理士へご相談ください。
【注意喚起】賃上げ促進税制の「補填額」に要注意― 名称だけで判断せず、交付要件で確認を ―
1. 結論
賃上げ促進税制の計算において、給与等の支給額から控除すべき「補填額」は、交付要件等で「給与負担の軽減目的」と明示されている補助金・助成金に限られます。
一方で、名称に「賃上げ」「処遇改善」「人材育成」などの文言が含まれていても、目的が異なれば補填額に該当しない場合があります。
したがって、補助金・助成金の名称だけで判断せず、交付要綱・支給決定通知書の内容確認が極めて重要です。
2. 背景と法的根拠
賃上げ促進税制(租税特別措置法第42条の12の5等)では、雇用者給与等支給額を算定する際、
「国又は地方公共団体から交付を受ける補助金等のうち、給与等の支給額の負担を軽減する目的で支給されるものの金額」
を控除する(=補填額として除く)と定められています(措法42の12の5第6項、同施行令29の7)。
しかし「補填額」に該当するかどうかの判断は、補助金の交付目的・交付要件によって個別に異なります。
3. 名称だけで判断できない理由
(1)「賃上げ」や「処遇改善」と書かれていても目的が異なることがある
例えば、
- 看護職員処遇改善評価料
- 介護職員処遇改善加算
- 社会保険適用時処遇改善コース(キャリアアップ助成金)
これらはいずれも「賃上げ」「処遇改善」と名がつきますが、**医療・介護報酬や保険料制度に基づく対価(役務提供の報酬)**であるため、補填額には含まれません。
(2)逆に、名称に「賃上げ」が含まれなくても補填額になるものもある
たとえば、
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- 人材開発支援助成金(訓練中賃金助成)
- 特定求職者雇用開発助成金
などは、賃金負担を直接支援する仕組みであり、交付要綱に「賃金負担軽減」や「賃金助成」の趣旨が明記されているため、補填額に該当します。
4. 実務での確認ポイント
補助金・助成金を受け取った場合には、以下の3点を確認することが重要です。
| チェック項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| ① 交付要綱の目的欄 | 「賃金」「給与」「人件費」「雇用主負担軽減」などの文言があるか | 記載があれば補填額の可能性が高い |
| ② 支給対象経費欄 | 「賃金助成」「給与補助」など具体的に給与支給額を対象としているか | 対象なら補填額の可能性あり |
| ③ 支給決定通知書 | 「交付目的」や「助成対象事業」が明記されているか | 不明な場合は要照会・要メモ |
5. 税務上の留意点
- 補填額は「受領した日の属する事業年度」の給与等支給額から控除します。
- 令和6年度以降は、役務の提供対価(医療・介護報酬など)を補填額に含めないとする取扱いが明確化されています。
- 交付要綱の目的が複合的な場合(例:設備投資+賃金支援)、按分処理が求められることもあります。
6. よくある誤認パターン
| 誤認例 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 「業務改善助成金」は設備投資だから補填額にならない | 実際は最低賃金引上げとセットで賃金支援を行う制度。交付要件に「賃金引上げ」があり、補填額となる可能性がある。 |
| 「処遇改善加算」も給与アップのための支給だから補填額だ | 実際はサービス提供の対価として受け取る報酬。補填額には含まれない。 |
| 「キャリアアップ助成金」はすべて補填額になる | 社会保険適用時処遇改善コースなど一部は補填額に含めない扱い。コースごとに要確認。 |
7. まとめと実務アクション
- 補助金・助成金を受給したら、必ず交付要綱・通知書を確認する。
- 「賃金負担軽減」「給与補助」等の記載があれば、補填額の可能性あり。
- 不明な場合は、補助金事務局または税務署に事前照会を行う。
- 税務申告時には、補填額の控除根拠を**文書で保存(交付要綱・通知書コピー添付)**する。
8. 参考リンク(確認日:2025年10月17日)
- 国税庁「賃上げ促進税制の概要」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5927.htm - 中小企業庁「賃上げ促進税制ガイドブック(令和6年度版)」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin06gudebook.pdf - 厚生労働省「賃上げ支援助成金パッケージ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/package_00007.html - 国税庁「法人税基本通達(措法42の12の5関係)」改正(令和6年度)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/241025/pdf/r.pdf
相続時精算課税を選ぶべきか?―小規模宅地特例との比較で考える
1.相続時精算課税とは
「相続時精算課税(そうぞくじせいさんかぜい)」とは、
60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に贈与をした際に選択できる制度です。
この制度を選ぶと、2,500万円までの贈与は非課税(特別控除)となり、
超える部分には一律20%の贈与税がかかります。
ただし、「精算課税」という名のとおり、
その贈与財産は相続時に贈与時の価額で相続財産に加算され、
最終的に相続税を再計算して過不足を精算する仕組みになっています。
したがって、
贈与時の評価で相続財産に組み込まれる
相続時の値上がり分は課税されない
という特徴があります。
2.小規模宅地等の特例との関係
一方で、「小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4)」は、
被相続人の自宅や事業用の土地について、一定の条件を満たすと評価額を最大80%減額できる制度です。
しかし、相続時精算課税で生前に贈与してしまうと、その土地は相続財産ではなくなるため、この特例は使えなくなります。
3.どちらが有利か?簡易比較式で考える
では、「精算課税を使って早めに贈与」するのと、
「相続まで持ち続けて小規模宅地特例を使う」のと、
どちらが有利でしょうか。
ここで次のように置きます:
| 記号 | 内容 |
|---|---|
| X | 贈与時の土地評価額 |
| Y | 相続時までの値上がり率(例:1.5倍なら Y=1.5) |
| t | 相続税率(便宜上同一とする) |
精算課税を選ぶ場合:課税対象額=X
相続時に小規模宅地特例を使う場合:課税対象額=0.2 × X × Y(80%減額後)
比較式はこうなります:
X ≶ 0.2XY
これを整理すると:
1 ≶ 0.2Y
⇨ Y ≶ 5
4.結論:「5倍ルール」でざっくり判断
土地が5倍以上に値上がりするなら、
→ 相続時精算課税を使って贈与時点の価格で固定する方が有利。値上がりが5倍未満なら、
→ 相続時精算課税を使わず、相続時に小規模宅地特例(80%減額)を使う方が有利。
もちろん、実際の税額は相続税率や他の財産構成、配偶者控除などによって変わりますが、
この「5倍ルール」は方向性をつかむうえで非常に実務的な目安になります。
5.注意点
相続時精算課税を選ぶと、その贈与者との間では以後すべての贈与が精算課税扱いになり、暦年課税(110万円控除)が使えなくなります。
贈与後に土地を第三者に貸したり、居住をやめたりすると、相続税の非課税メリットが消える可能性があります。
制度選択は**届出が必要(申告期限内に提出)**であり、取り消し不可です。
6.まとめと実務対応
| 比較項目 | 相続時精算課税 | 小規模宅地特例 |
|---|---|---|
| 適用タイミング | 生前贈与時 | 相続時 |
| 評価基準 | 贈与時の価格 | 相続時の価格(最大80%減額) |
| 値上がりリスク | なし(固定) | あり(評価上昇で課税増) |
| 制度の併用 | 不可 | 併用可(他財産次第) |
| 有利になる条件 | 値上がりが大きい | 値上がりが小さい |
7.次のアクション
路線価・倍率方式で**贈与時と相続時の評価差(Y)**を試算する。
相続税率帯(t)を確認し、実効税負担を比較。
贈与後も同居・自宅利用を継続するかを確認。
制度の選択は一度選ぶと取り消せないため、税理士に試算依頼を行う。
📘 参考資料(2025年10月確認)
国税庁『相続時精算課税制度のあらまし』
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4104.htm国税庁『小規模宅地等の特例(居住用)』
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/3302.htm租税特別措置法第69条の4、相続税法第21条の9・15
最低賃金と物価の推移を読み解く──インフレ局面で注目すべき公的支援策とは
最低賃金の引上げが続くなか、企業経営や家計においては「実質的な購買力」がどう変化しているのかが重要なポイントとなっています。
ここでは、過去25年の東京都最低賃金と消費者物価指数(CPI)の推移を分析した上で、国・東京都による主な支援策をご紹介します。
📈 東京都の最低賃金とCPI(物価指数)の推移
下記のグラフは、2000年から2025年までの東京都最低賃金と全国消費者物価指数(CPI)を比較したものです。

名目賃金は右肩上がり、物価は長らく横ばい
- 2000年の東京都最低賃金は 703円でしたが、2025年には 1,226円へと約1.7倍に上昇しています。
- 一方、CPI(2020年=100)は長らく横ばいで推移し、2000〜2010年代前半はほとんど上昇していませんでした。いわゆる「デフレ期」であり、この時期は最低賃金の名目上昇がそのまま実質賃金の改善につながりやすい環境でした。
2022年以降はインフレ局面に
2022年以降、エネルギー価格高騰や円安の影響を受け、全国的に物価が上昇しています。
CPIも2023年以降顕著に上昇し、最低賃金の上昇ペースとの差が縮まっています。
つまり、名目賃金が上がっても物価上昇がそれを上回れば、実質購買力は伸びないという状況が生じます。最近では実質賃金指数がマイナスになる月もあり、最低賃金の引上げだけで生活水準を維持することが難しくなりつつあります。
経営上の含意
企業にとって最低賃金引上げは、人件費上昇を意味します。一方で、販売価格への転嫁や業務改善が進まない場合、利益圧迫につながる可能性があります。
最低賃金と物価の推移をセットで把握することは、賃金戦略・価格戦略を考える上で重要です。
🧾 政府・東京都による主な支援策
最低賃金引上げに伴い、政府および東京都では以下のような支援策を用意しています。
(※当事務所では申請手続きは行いません。制度の概要紹介にとどまります)
1. 厚生労働省(東京都労働局)による助成金
- 業務改善助成金
最低賃金を30円〜90円引き上げ、併せて設備投資等を行った場合、30万円〜600万円の助成。 - キャリアアップ助成金
非正規労働者の賃金規定改定による賃上げで、1人あたり4万〜7万円支給。 - 働き方改革推進支援助成金、人材確保等支援助成金、人材開発支援助成金
働き方改革・制度整備・職業訓練など、生産性向上や労働環境改善を行った場合の助成制度が整備されています。
👉 各制度とも 交付決定前の着手は対象外 です。計画→申請→実施→報告という順序が重要です。
2. 東京都による無料伴走支援
東京都は「東京働き方改革推進支援センター」を通じて、36協定、就業規則、助成金活用、人手不足対応など、幅広いテーマで無料相談を提供しています。訪問・オンライン・電話・メールなど柔軟な対応が可能です。
3. 経済産業省・中小企業庁による補助金・税制・価格転嫁支援
- 価格転嫁支援:「中小受託取引適正化法」の施行準備や価格交渉促進月間を強化
- 補助金優遇:IT導入補助金・ものづくり補助金・省力化投資補助金の要件緩和や審査優遇
- 税制支援:賃上げ促進税制の活用や繰越控除制度の拡充など
賃上げをきっかけに、販路拡大・業務改善・価格戦略を総合的に支援する内容となっています。
📝 まとめ
- 東京都の最低賃金は長期的に上昇を続け、特に物価が横ばいだった時期には実質賃金も改善してきました。
- 一方で、近年のインフレ局面では、名目賃金の引上げと物価上昇が拮抗しており、企業経営にとっては価格転嫁と生産性向上がカギとなります。
- 政府・東京都は、助成金、補助金、税制、無料相談体制などを整えています。制度の趣旨を理解し、計画的に活用することが重要です。
当事務所では申請代行は行いませんが、制度の概要や活用の方向性など、経営判断の一助となる情報提供を行っています。
ご希望のお客様には、社会保険労務士をご紹介しますので、ご相談ください。
インボイス制度の廃止を求める税理士の会
インボイス制度の廃止を求める税理士の会から賛同のお願いがございます。
全政党に、インボイス制度廃止法案の提出を求める要請文を送付しました。
ついては、下記のリンク先より本アクションへの賛同をお願いします。組織・個人を問いません。
後日、賛同者を一覧にし、政党等に提出します。
2割特例・8割控除がなくなる26年9月末までに、インボイスをなくしましょう。
【経営管理ビザ改正】外国人起業家の二極化と外国人排除の動き:中国人富裕層は無影響?
2025年度中に予定されている**経営管理ビザの資本金要件引き上げ(500万円→3,000万円)**は、外国人起業家の在り方を大きく変える可能性があります。
さらに、この背景には、参議院選挙での「外国人排除」的な世論や、オーバーツーリズム・外国人犯罪への懸念が政府対応を後押しした構図があります。
しかし、統計上、外国人犯罪の増加は確認されておらず、むしろ減少傾向です。
では、なぜこのような方向性に進んでいるのか、そして外国人起業家にどのような影響が及ぶのかを解説します。
1. 経営管理ビザ資本金要件引き上げの概要
- 現行要件:資本金500万円以上 or 常勤職員2名以上
- 改正後:資本金3,000万円以上(国際基準に合わせる方向性)
- 施行時期:2025年度中に省令改正予定(公布後数ヶ月の準備期間見込み)
2. 外国人起業家の「二極化」と実質的排除
この改正により、外国人起業家は二極化が進むと予想されます。
■ 中所得国(ベトナム・タイ・ネパール等)の起業家
- 飲食業や小規模サービス業中心で、資本金500万円程度の起業が一般的
- 資本金3,000万円は現実的に困難であり、事実上の排除に近い影響
- 地域で多文化的なビジネスを展開してきた層が縮小する恐れ
■ 中国人富裕層
- 数千万円単位の資金を動かせる層は要件を容易に満たし、影響は軽微
- むしろ、中所得国層の撤退で市場参入余地が拡大する可能性あり
3. 背景にある「外国人排除」の政治的動き
- 2025年夏の参議院選挙では「外国人犯罪増加」「オーバーツーリズム」が争点化し、政府は外国人政策の見直しを打ち出しました。
- しかし、選挙後の警察・法務省統計によれば、外国人犯罪は長期的に減少傾向にあり、2023年時点で検挙率は在留外国人比0.29%と低水準です。
- 統計との乖離にもかかわらず、「外国人排除」世論が制度改正の後押しとなったと考えられます。
4. 政策の実質的な狙いは「資金力重視」?
この流れは、単なる治安対策ではなく、「資金力のある外国人富裕層を優遇し、中小規模の起業を抑制する」方向性といえます。
- 中所得国出身の起業家層 → 実質的な参入障壁
- 富裕層(特に中国系投資家) → 影響なし、むしろ優位拡大
結果として、外国人ビジネスは不動産投資や高級消費型中心となり、地域の生活に密着した外国人事業は衰退する恐れがあります。
5. 地域経済や多様性への影響
- 地方都市で増えていたエスニック飲食店や外国人コミュニティ支援型ビジネスが減少
- 雇用や多文化共生の機会縮小
- 富裕層中心の資本集中による都市部不動産市場の過熱リスク
これらは、地域社会における外国人との共生や経済循環にも影響を与えます。
6. 会計事務所のサポートと提言
当事務所では、外国人経営者向けに以下のサポートを提供しています:
- 経営管理ビザ取得・更新に必要な資本金調達・増資手続き
- 事業計画書作成支援とビザ審査対応サポート
- 法人設立・会計・税務顧問による一貫サポート
- 地域に根ざしたビジネスモデル設計のアドバイス
今後の制度改正は「資金力重視」の傾向が強まるため、早期の準備が成功のカギとなります。
まとめ
- 経営管理ビザ資本金要件の引き上げは、中所得国の外国人起業家の参入を実質的に制限し、中国人富裕層など資金力のある層を優遇する方向性。
- 背景には、参議院選挙での「外国人犯罪」「オーバーツーリズム」への懸念から生まれた外国人排除の世論がある。
- 統計的には犯罪増加は確認されておらず、政治的動機が強い改正とも考えられる。
外国人経営者の方は、資本金準備やビザ要件への対応を早めに進めることが不可欠です。当事務所では、ビザ取得から会計・税務まで総合的にサポートいたします。
消費税から見える日本社会のゆがみ――2025年参議院選挙を前に考える
こんにちは。藁総合会計事務所です。
2025年7月20日に投開票を迎える参議院選挙が迫る中、各政党から「消費税はお金持ち優遇」「消費税を減税して手取りを増やす」「給付金で生活支援を」といった政策が掲げられています。
しかし、これらのスローガンの背景にある本質的な問いに、私たちはしっかりと向き合えているでしょうか?
本コラムでは、消費税を起点に、格差・教育・政治参加・文化といった日本社会の構造的な課題を紐解き、今回の選挙を「未来の社会像を選ぶ機会」として捉える視点をお届けします。
■ 消費税は本当に“公平”なのか?
消費税は、一見すると誰にも同じ税率がかかる「公平な税制」に見えます。
しかし、収入の多寡によって実質的な負担率は大きく異なります。生活の大部分を消費に充てる低所得層にとって、消費税は実質的に重くのしかかります。これを「逆進性」と呼びます。
高所得層や法人は、さまざまな節税手段を通じて他の税から逃れる術を持っていますが、消費税だけは逃れにくい。この点において、消費税の増税は「取りやすいところから取る」構造になりがちなのです。
税理士 藁信博(