外国人不動産売却が進む日本で注意すべき「非居住者への源泉徴収義務」
1. 日本経済と外国人投資家の動向
近年、日本では外国人労働者や外国人経営者を取り巻く制度が厳格化する傾向にあります。
在留資格の取得・更新要件も見直され、「外国人を取り巻く環境が右傾化している」と指摘されることも少なくありません。
一方で、日本経済は労働力・投資資金の両面で外国人の貢献に依存しています。
もし、こうした外国人投資家や経営者が日本市場から撤退(エスケープ)する動きが広がれば、不動産市場にも波及し、外国人所有の不動産売却が相次ぐ可能性もあります。
このとき、日本人が非居住者(外国人)から不動産を購入する場合に発生する税務リスクとして、
特に重要なのが「源泉徴収義務」です。
2. 非居住者への不動産代金支払いには「源泉徴収」が必要
結論
非居住者(または外国法人)から日本国内の不動産を購入する場合、
買主(日本居住者・法人)には、譲渡代金の10.21%を源泉徴収して国に納付する義務があります。
🔹 税率:10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)
🔹 対象:土地・建物等の譲渡代金
🔹 納付期限:支払日の翌月10日まで
計算例
売買価格が1億円の場合:
源泉徴収額=1億円 × 10.21% = 1,021万円
売主への支払額=8,979万円
買主は1,021万円を税務署に納付
3. 法的根拠と参考資料
| 区分 | 出典 | 内容 |
|---|---|---|
| 所得税法第212条第1項第5号 | 非居住者への不動産譲渡代金の支払に関する源泉徴収義務 | |
| 所得税法施行令第322条 | 「国内にある資産の譲渡」定義 | |
| 所得税基本通達212-1 | 国内不動産の範囲の明示 | |
| 国税庁タックスアンサー No.12036 | 非居住者からの不動産購入時の源泉徴収義務の説明(確認日:2025年11月7日) |
4. 実務対応の流れ
売主の居住区分を確認
在留資格・住民票の有無・帰国状況などから「非居住者」かを判定。支払時に源泉徴収
売買契約額に10.21%を乗じて差し引く。翌月10日までに納付
「所得税徴収高計算書」により所轄税務署へ納付。支払調書の提出
翌年1月末までに「不動産等の譲渡の対価の支払調書」を提出。源泉徴収票を売主に交付
非居住者側はこれを基に確定申告し、過剰分を還付申請可能。
5. 注意点とリスク
居住者・非居住者の判定は支払時点で行う。
売主が法人(外国法人)の場合も源泉徴収対象。
不動産業者を介しても、最終支払者が個人なら義務あり。
源泉徴収を怠ると、買主側に不納付加算税・延滞税が課される。
源泉徴収は譲渡所得税の前払いであり、最終的な税額とは異なる。
6. 今後の展望と専門家の役割
外国人投資家が日本不動産市場から撤退する場合、
短期的には不動産価格の調整局面が生じる可能性もあります。
ただし、手続の煩雑さや税務リスクが壁となり、
買い手側の負担が増すことにも注意が必要です。
税理士や不動産業者は、
「非居住者との取引における源泉徴収義務」を確実に把握し、
契約書面や資金決済の段階で誤りがないようサポートすることが求められます。
7. まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 非居住者・外国法人への不動産代金支払 |
| 税率 | 10.21%(所得税+復興特別税) |
| 納付期限 | 支払月の翌月10日まで |
| 書類 | 所得税徴収高計算書、支払調書、源泉徴収票 |
| リスク | 源泉徴収漏れ=買主にペナルティ |
8. 専門家からのアドバイス
契約締結前に「売主が非居住者かどうか」を必ず確認
契約書に「源泉徴収条項」を明記
税務署への納付は期限厳守(遅延時は罰則)
外国人売主側には還付請求の案内も行う
✅ まとめると…
外国人不動産投資家の動向が変化する今こそ、
「非居住者への源泉徴収義務」を正確に理解し、
税務リスクを未然に防ぐことが、買主・仲介業者双方に求められています。
税理士 藁信博(