「今年のうちにやるべきこと」5選 ― 年末を迎える前に確認したい、税務・労務・経営のチェックポイント ―
1.導入:年末を迎える前に確認すべき「経営の足元」
11月以降、決算や年末調整、社会保険料の見直しなど、経理・労務担当者にとって慌ただしい時期がやってきます。
「あとでまとめて処理しよう」と後回しにした結果、年明けに慌てて修正や追加対応に追われるケースも少なくありません。
本稿では、2025年のうちに確認・実行しておきたい重要項目5選を、税務・会計・労務の観点から整理します。
2.制度解説:年末対応が重要となる背景
法人・個人を問わず、12月は「期中調整」「法定期限前の行為」「来期への布石」が重なる時期です。
税務署や年金事務所の手続きも年明けに集中するため、年内に判断・届出を済ませることが、円滑な経営管理につながります。
また、2025年は以下のような制度改正・トレンドにも留意が必要です。
インボイス制度の猶予期間が終了し、経過措置が段階的に縮小
電子帳簿保存法の「宥恕期間」終了に伴う実務対応の厳格化
賃上げ促進税制の適用拡大(中小企業向け要件変更)
社会保険の適用拡大(パート・アルバイトを含む)
各種補助金・助成金の予算切り替え期
3.実務上の判断軸:「今年のうちにやるべきこと」5選
(1)交際費・福利厚生費の整理
年末に駆け込みで支出が増える時期です。交際費・会議費・福利厚生費の区分が曖昧なまま処理すると、税務調査で損金算入が否認されるリスクがあります。
社員向け→福利厚生費
取引先向け→交際費
社内会議・打合せ→会議費(合理的な説明要)
ポイント: 支出目的・参加者・内容をメモ等で残すことで、経費性の説明が容易になります。
(2)固定資産の棚卸・償却費の確認
使用していない備品や資産を放置していると、会計上も税務上も不適切です。
廃棄・除却を決定した資産は年内に除却処理
少額減価償却資産(30万円未満)の特例は年内購入分まで
例外: 中小企業者等特例の適用対象は資本金1億円以下の法人などに限定されます。
(3)役員給与・賞与の見直し
役員報酬は「定期同額給与」または「事前確定届出給与」として事前に決めた金額しか損金算入できません。
賞与を支給予定の場合は、**事前確定届出書の提出期限(支給日1か月前)**を必ず確認しましょう。
(4)年末調整と社会保険の適用確認
パート・アルバイトの週20時間以上勤務者について、2025年10月からの適用拡大を見据え、年内に勤務実態を点検しておくと安心です。
また、年末調整では以下の点を確認しましょう。
控除証明書(生命保険・地震保険など)の提出漏れ
住宅ローン控除の初年度書類
扶養親族の所得確認
(5)電子帳簿保存法・インボイス対応の最終確認
電子取引データ(PDF請求書など)は電子保存が原則義務化されています。
やむを得ず紙で保存している場合は、**保存要件(タイムスタンプ・訂正履歴・検索性)**を満たすか確認しましょう。
インボイス登録番号の記載漏れも、控除否認のリスク要因です。
4.よくある誤解と修正
| よくある誤解 | 実際の取扱い |
|---|---|
| 「12月に払えば全部当期経費になる」 | 役員給与や前払費用は、支出時期よりも契約・届出の内容が優先されます。 |
| 「交際費は年間800万円まで損金」 | 資本金1億円超の法人は除外。対象範囲や超過分の扱いに注意。 |
| 「電子帳簿保存はまだ猶予中」 | 宥恕期間は終了。実務上は即時対応が求められます。 |
5.現場で役立つ実務チェックリスト
固定資産台帳の更新・除却確認
年末調整資料の回収状況
電子帳簿保存法対応(社内ルール・システム)
役員賞与届出書の提出期限確認
交際費・福利厚生費の区分明確化
6.まとめ:早めの準備が信頼経営につながる
年末対応は「後でまとめて」ではなく、「今のうちに一点ずつ確認する」ことが肝要です。
税務リスクを防ぐだけでなく、決算書の信頼性や金融機関からの評価向上にもつながります。
藁総合会計事務所では、年末調整・インボイス・電子帳簿保存法への実務対応についてもサポートしています。
経営者の皆さまが安心して新年を迎えられるよう、ぜひお気軽にご相談ください。
税理士 藁信博(