経営者が忘れがちな「個人側の税金」とは ― 会社の数字だけ見ていると、思わぬ落とし穴があります ―
法人経営者の方とお話をしていると、
「会社の税金は税理士に任せているから大丈夫」
「法人税・消費税は把握している」
という声をよく耳にします。
一方で、意外と見落とされやすいのが、
経営者“個人”として負担している税金です。
会社の数字がきれいに整理されていても、
個人側の税金を正しく理解していないと、
「手取りが思ったより増えない」
「あとから想定外の税負担が出てくる」
といった事態が起こりがちです。
今回は、**経営者が特に忘れやすい「個人側の税金」**について、実務の視点から整理します。
1.「会社」と「個人」は税金の世界では別人格
まず大前提として、
会社(法人)と経営者個人は、税務上まったく別の存在です。
法人 → 法人税・法人住民税・法人事業税・消費税
個人 → 所得税・住民税・社会保険料 など
この切り分けを意識していないと、
「会社で利益が出ている=自分も余裕がある」
と誤解してしまいがちです。
実際には、
会社の利益と、経営者個人の可処分所得は一致しません。
2.経営者が忘れがちな個人側の税金①
役員報酬にかかる「所得税・住民税」
経営者個人にとって、最も基本となるのが役員報酬です。
役員報酬は、
法人側では「損金(経費)」になりますが
個人側では「給与所得」として課税されます。
その結果、
所得税(累進税率)
住民税(一律10%)
が毎月・毎年、確実にかかります。
法人税だけを意識して役員報酬を高く設定すると、
個人側の税率が一気に上がり、トータルでは不利になるケースも少なくありません。
3.経営者が忘れがちな個人側の税金②
住民税は「ワンテンポ遅れて」やってくる
住民税は、前年の所得をもとに課税されます。
そのため、
会社の業績が落ちた
役員報酬を下げた
という年でも、
前年の好調時の所得に基づく住民税が課税されることがあります。
「今年は報酬を下げたのに、住民税が高い」
と感じる理由の多くは、このタイムラグです。
資金繰りや生活費を考えるうえで、
住民税は必ず“翌年分まで含めて”見積もる必要があります。
4.経営者が忘れがちな個人側の税金③
社会保険料は「税金ではないが、実質的な負担」
厳密には税金ではありませんが、
**社会保険料(健康保険・厚生年金)**は、
経営者個人にとって非常に大きな負担です。
特に注意が必要なのは、
役員報酬を上げる
→ 社会保険料も連動して増える
→ 手取りは思ったほど増えない
という構造です。
法人・個人トータルで見ると、
「税金より社会保険料の方が重い」
というケースも珍しくありません。
5.経営者が忘れがちな個人側の税金④
配当・不動産・副収入への課税
経営者の方は、以下のような収入をお持ちのことも多いです。
株式の配当
不動産収入
副業・講演料・原稿料 など
これらは、役員報酬とは別に
個人の所得として確定申告が必要になります。
特に注意したいのは、
「会社とは関係ない収入だから大丈夫」
「源泉徴収されているから問題ない」
と思い込んでしまうケースです。
実際には、
合算すると税率が変わる、住民税が増える
といった影響が出ることがあります。
6.なぜ「個人側の税金」は見落とされやすいのか
理由はシンプルです。
法人税・消費税 → 決算で“見える”
個人の税金 → 給与天引きや翌年課税で“見えにくい”
その結果、
会社の数字だけを見て経営判断をしてしまう
ということが起こります。
しかし、本来重要なのは
「法人+個人トータルで、どれだけ残るか」
という視点です。
7.まとめ:経営者こそ「個人側」まで含めて考える
経営者にとっての税務は、
「会社の税金」だけでは完結しません。
役員報酬
所得税・住民税
社会保険料
副収入への課税
これらを含めて初めて、
本当の意味での手取り・可処分所得が見えてきます。
役員報酬の金額や設計一つで、
将来の税負担や生活の安定性は大きく変わります。
「会社の税金は見ているけれど、
個人側までは整理できていない」
そう感じた方は、
ぜひ一度、法人と個人をセットで見直してみてください。
状況に応じた最適なバランスについて、
お気軽にご相談ください。
税理士 藁信博(