【2023〜2025年の労働時間制度の変更点】 ― 割増率・上限規制・運用強化を一枚で理解する ―
2023年から2025年にかけて、労働時間や残業の扱いに関する重要な制度変更が段階的に行われています。
特に中小企業は、「いつ・何が変わったのか」「自社が対象なのか」が分かりにくく、誤解しやすい領域です。
本稿では、“割増率”と“残業時間の上限規制”を分けて理解できるように再編成し、経営者・実務担当者が押さえるべきポイントを整理しました。
■ 1.まず押さえるべき全体像
労働時間まわりの制度変更は、大きく3つに分類できます。
① 割増賃金率の変更(給与計算に関係)
② 残業時間の上限規制(働かせ方に関係)
③ 運用ルールの厳格化(管理職・裁量労働制など)
それぞれの発生時期がズレているため、混乱が生じやすくなっています。
■ 2.【割増率】が変わったのは“2023年のみ”
◎ 2023年4月:月60時間超の残業は「割増率50%」が中小企業にも適用
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 中小企業すべて |
| 改正内容 | 月60時間超の時間外労働 → 割増50% |
| 従来 | 大企業のみ50%、中小企業は25%だった |
| 影響 | 給与計算・36協定・固定残業制度の見直し |
▶ 「割増率の適用範囲の拡大」は2023年が唯一の該当。
▶ 2024年・2025年には“割増率の追加変更”はありません。
■ 3.【上限規制】の適用は“2024年から本格化”
2024年から、これまで猶予されていた業種にも「残業時間の上限規制」が適用されました。
これは“割増率”とはまったく別の制度です。
◎ 2024年4月:特定業種に上限規制が適用
| 対象業種 | 主な内容 |
|---|---|
| 建設業 | 年720時間が上限(例外の厳格化) |
| 運送業(自動車運転業務) | 年960時間まで |
| 医師 | 健康確保措置の義務化 |
▶ 「働かせ方」そのものを制限する内容で、割増率とは別物。
▶ 36協定、シフト、休憩・休日管理の見直しが必要。
■ 4.【2025年】は“割増率ではなく運用の厳格化”
2025年に「割増率が上がる」などの法改正はありません。
しかし、実務レベルでは以下の“運用強化”が明確に進みます。
◎ 2025年の重要ポイント(新制度ではなく、適用運用の強化)
管理監督者の基準の厳格判断(名ばかり管理職の否定)
深夜・休日労働の区分管理の明確化
労働時間の電子管理(PCログ、ICカード等)の適正利用
副業・兼業者の労働時間通算ルールの整備
裁量労働制の適正運用チェック
特別条項付き36協定の「実態確認」強化
▶ 制度そのものではなく“適用の実務が厳しくなる”年と理解するのが正確。
■ 5.経営者が押さえるべき実務ポイント(2025年対応)
【1】給与計算の確認(割増率50%対応は済んでいるか)
月60時間超の残業は正しく50%計算されているか
固定残業代と実残業時間の整合性が取れているか
【2】働き方の見直し(上限規制対応)
業種特有の上限に該当しないか
36協定の内容が実態と一致しているか
【3】管理職の扱い(最重要)
管理監督者の基準判定に問題がないか
裁量労働制の文書・協議の整備
【4】労働時間の電子記録の扱い
PCログ/勤怠記録のどちらを正とするかルール化
労働時間の二重管理の危険がないか
■ 6.まとめ
「割増率が変わった」のは2023年のみ。
「上限規制」は2024年から本格適用。
「2025年」は制度変更というより“運用が厳しくなる年”。
制度の理解が曖昧なまま放置すると、給与計算の誤り、固定残業代の無効化、名ばかり管理職の指摘など、会社にとって大きなリスクにつながります。
会社の状況に合わせて、労務・税務・人事の観点から総合的な見直しを行うことが重要です。
税理士 藁信博(