【在庫管理が節税につながる理由】 —在庫の“見える化”が企業財務を強くする—
1.導入:なぜ「在庫管理」に税務上の注目が集まるのか
在庫は、業種を問わず多くの企業にとって「売上の源泉」である一方、適切な管理がされていなければ“税務リスクの温床”にもなり得ます。
特に中小企業では、棚卸の手順が曖昧だったり、在庫評価が担当者任せになり、結果として決算に影響してしまうケースが少なくありません。
在庫は「資産」であり、期末在庫が多いと利益が増え、逆に少ないと利益が減ります。だからこそ、在庫管理は経営管理であると同時に、正確な税務申告に直結する重要テーマといえます。
本稿では、在庫管理がどのように節税につながるのか、その仕組みと判断軸を、2025年時点の税法に基づき整理します。
2.制度解説:在庫評価と利益の関係
税務上の「在庫(棚卸資産)」は、取得価額または低価法が原則です(法人税法第22条・同施行令)。
期末在庫が増えると、その分だけ当期の売上原価が減り、結果として利益が増えます。逆に、在庫が減ると利益は減ります。
▼売上原価の計算式
つまり、期末在庫を正しく評価できるかどうかが、利益と納税額に直結します。
特に、劣化・破損・陳腐化(型落ち品)などで価値が下がった在庫は、税務上「評価損」を計上できる場合があります。これが節税につながる大きなポイントです。
3.実務上の判断軸:担当者が迷いやすいポイント
在庫管理で判断が難しいのは、次のようなケースです。
●①「本当に使えない在庫」かどうか
劣化や破損があっても、証拠(写真・廃棄記録・棚卸表)がないと評価損は認められない可能性があります。
●②「陳腐化(型落ち)」の判断基準
家電、アパレル、季節商品などは、販売価値が大幅に下がることがあります。
ただし、値下げ販売の事実や市況下落の証拠が必要です。
●③棚卸の方法
・実地棚卸をしていない
・担当者ごとに評価基準が異なる
・棚卸差異の原因を追跡していない
——これらは税務調査で特にチェックされるポイントです。
●④「仕掛品・原材料」などの評価
製造業では、仕掛品や加工途中の材料の評価が複雑になりやすく、算定方法に一貫性が必要です。
4.よくある誤解と、そのリスク
在庫管理には、次のような誤解が多く見られます。
❌ 誤解①:在庫は“実地棚卸”をしなくても推定でよい
→ 税務上は、実地棚卸が原則。推定は原則認められません。
推定で算定すると、後日否認され、追徴課税につながる恐れがあります。
❌ 誤解②:使えなくなった在庫は捨てれば経費になる
→ 廃棄の事実と理由を示す証拠が必要。
特に、大量廃棄の場合は廃棄記録や写真が求められます。
❌ 誤解③:古くなったものは一律に評価損にできる
→ 実際の販売価格の下落、型落ちの事実など、合理的な根拠が必須です。
誤った判断は税務調査での否認につながり、追加の納税や加算税のリスクが生じます。
5.現場で役立つ対策・チェックポイント
在庫管理を節税につなげるには、「正しい評価」と「証拠の残し方」が重要です。
▼年度末前に確認しておくべきポイント
棚卸の実施日と手順を明確化する(マニュアル化)
劣化・破損・陳腐化在庫の洗い出し
廃棄記録の保存(写真・数量・廃棄理由)
市場価格の下落があれば、**価格証明(値下げ履歴や競合価格)**を保管
仕掛品・原材料の評価基準を一貫して運用する
棚卸差異が出た場合は、原因を把握し、次回の管理改善につなげる
▼在庫管理の整備は、次の経営効果も生みます
資金繰りの改善(不要在庫の圧縮)
発注ミスの削減
粗利率の改善
不正・ロスの防止
経営判断のスピード向上
税務だけでなく、経営管理全体に好循環をもたらす“投資対効果の高い取り組み”といえます。
6.まとめ・行動のすすめ
在庫管理は「節税テクニック」のように語られることがありますが、本質は“正しく企業活動を記録する”という基本にあります。
適切な棚卸と評価は、税務リスクを下げるだけでなく、経営の透明性を高め、企業の信頼性向上にもつながります。
「期末が近づいたから棚卸をする」のではなく、平時からの在庫管理の整備が、最も確実で持続的な節税につながる方法です。
在庫管理や在庫評価の見直しをご検討中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
御社の業種・在庫特性に応じて、最適な方法を丁寧にご提案いたします。
税理士 藁信博(