年末賞与で「節税効果を最大化」する方法 ― 2025年の税務と実務のポイント ―
1.導入:年末賞与が注目される理由
年末は、1年の業績を踏まえて社員への「賞与(ボーナス)」を支給する企業が多い時期です。
賞与は社員のモチベーションを高める重要な手段である一方、法人にとっては「損金算入できる時期」や「支給方法」によって、節税効果に大きな差が生じます。
特に、支給時期の判断を誤ると、損金算入の時期が翌期にずれ込み、税負担が重くなるケースも見られます。
本稿では、制度上の正確な理解とともに、「年末賞与をどう扱えば節税効果を最大化できるか」を、実務的な視点で整理します。
2.制度解説:賞与の損金算入と源泉徴収の基本
法人税法上、賞与は「実際に支給した事業年度」に損金算入できます(法人税法22条、法人税基本通達9-2-41)。
したがって、決算期末までに支給が完了していることが前提条件です。
たとえば12月決算の会社であれば、12月末までに賞与を支給(または確定)する必要があります。
また、賞与を支給する際には以下の手続きが必要です。
| 手続項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 源泉所得税 | 支給時に天引き | 翌月10日までに納付 |
| 社会保険料 | 賞与支給届を提出 | 健康保険・厚生年金の標準賞与額で計算 |
| 雇用保険料 | 同様に控除・納付 | 上限は年間150万円まで反映 |
3.実務上の判断軸:損金算入の“タイミング”と“確定要件”
節税効果を最大化するには、「いつ損金にできるか」の判断が肝心です。
法人税法では、賞与を損金算入するために次の3要件を満たす必要があります(法人税法施行令72条の2)。
支給額が事業年度末までに全従業員に対して通知されている
事業年度末までに金額が確定している
事業年度終了後1か月以内に実際に支給されている
このいわゆる「未払賞与の損金算入要件」を満たせば、実際の支払いが翌月でも、当期の損金とすることが可能です。
ただし、1人でも支給額が未確定の従業員がいれば、全体が損金算入できなくなるため、注意が必要です。
4.よくある誤解と修正
誤解①:「賞与を計上すれば自動的に損金算入できる」
→ 実際には「確定通知+支給期日1か月以内」の要件が必要。未払計上だけでは認められません。誤解②:「取締役賞与も経費にできる」
→ 役員への賞与は「定期同額給与」または「事前確定届出給与」でなければ損金不算入となります(法人税法34条)。役員賞与は別のルールで管理すべきです。誤解③:「支給額を一律カットすれば節税になる」
→ 賞与額の減額は従業員の士気低下や離職につながり、結果的に経営コスト増を招くこともあります。単純なコスト削減は得策ではありません。
5.現場で役立つ実務チェックリスト
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| ✅ 支給総額の決定 | 役員会・取締役会で議事録を残しておく |
| ✅ 従業員ごとの支給額通知 | 書面・メールなどで本人に確定通知を行う |
| ✅ 支給日程 | 期末から1か月以内に実際の支給 |
| ✅ 社会保険・源泉税の処理 | 各届出・納付期限をスケジュールに反映 |
| ✅ 役員分との区分 | 従業員賞与と明確に区別し、別管理 |
実務のポイント
・支給日と経理処理日を明確にし、会計システム上でも同一期間に反映させる
・税務調査では「通知の証拠書類(社内メール・Excel一覧・回覧文書)」の提示が求められるケースが多い
6.まとめ:適切な賞与運用が“信頼経営”につながる
賞与は「感謝と評価の象徴」であると同時に、税務・会計上の精緻な判断が求められる取引です。
法令要件を正確に押さえ、タイミングを誤らずに処理することで、節税効果を最大化できるだけでなく、従業員への誠実な姿勢としても評価されます。
藁総合会計事務所では、年末賞与の計算・支給時期の判断・損金算入可否の確認など、実務全般をサポートしております。
「節税」と「信頼」の両立を目指す経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
税理士 藁信博(