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プロジェクトマネジメント(1) 経営との違いは何なのだ!『2022年4月号Way To The Top』より

皆さんは、プロジェクトマネジメントをご存じでしょうか。これまで私には、設定されたミッションの為のスケジュール、関係者リスト、予算書、作業工程、スケジュールの進捗管理、状況の変化に伴う見直し等の為のマネジメントという理解でした。米国にPMI(Project Management Institute)という団体があり、この団体がPMBOK(Project Management Body of Knowledge)を策定しています。このPMBOKとは、プロジェクトマネジメントのノウハウや手法を体系をまとめたもので、一九八七年にアメリカで「A Guide to the Project Management Body of Knowledge」というガイドブックを公表され、現在第7版まで策定され世界標準となっています。
標準化・体系化されることで「プロジェクトマネジメント」という言葉が指し示す物事がはっきりします。標準化は知識の範囲を明確にし、知識習得を促進します。グローバル化により国境を越えたプロジェクトで世界の人々とのプロジェクトでは標準化は必須とも言えます。

役割の束・プロジェクトの束
業務の高度化により、プロジェクトの開始とともに各々の「役割」により人々が集まり、プロジェクトの終了と共にチームが解散する。「仕事」をシンプルに考えると、普段の仕事も臨時の仕事も、それぞれがプロジェクトであると考えれば、仕事とは「様々なプロジェクトにおける自分の役割の束」と考えられます。マネジメント側から業務を眺めると、様々なプロジェクトが進行し、プロジェクトの継続と終了、終了したプロジェクトからのフィードバック、新たなプロジェクトが作られる。全ての業務はプロジェクトの束と考えるべきなのかもしれません。

PMBOKと経営
PMBOKではプロジェクトマネジメントとは「プロジェクトの要求事項を満たすために、知識、スキル、ツールおよび技法をプロジェクト活動へ適用することである。」と定義されています。
私なりに、プロジェクトマネジメントの定義を「ビジネスマネジメント(経営をする)」に当てはめてみます。「プロジェクトの要求事項」を「事業の存続のため」とします。しかし、存続することはとても重要ではありますが、存続すれば良いというものでもありません。「創業経営者のビジョンやビジネスモデルのため」と置き換えると、以前弊誌で書いたヘンリー・ミンツバーグのデザイン学派を思いださせます。デザイン学派とは、CEOによるSWOT分析を基本とした戦略モデルで、組織の重大な変化が収まり、安定に向かうときには有効な戦略です。変化の少ない環境であればフィットしますが、現状の日本は成熟の終焉を迎え変化を迎えようとしている環境であると仮定します。PMBOKの中でも「予測型から適応型」という言葉があります。適応型はラーニング学派をイメージさせます。ラーニング学派は変化するためのマネジメントではなく、変化によるマネジメントです。組織能力を最大限に生かし、その能力を実験の対象とし、仮説の元に行動し、行動の結果により得られた知見を次の行動に反映させる。これを繰り返すことによって戦略を形成し、新たな環境に組織能力を適合させる戦略です。
とりあえず、「経営とは、変化するビジネスそれ自身の要求事項を満たすために、知識、スキル、ツールおよび技法を事業活動へ適用することである。」と定義することにします。
「ビジネスそれ自身の要求事項」を考えてみます。顧客の要求事項、組織の要求事項、法的要求事項の3つを満たさなければなりません。組織の要求事項として、組織が存続しつづけられることや、組織の構成員が適切な利益を得られること、組織活動により生み出されるサービスや商品が社会的に意義のあるものであることなどの基本的な要求事項の他にも、創業時の経営者の「思い」や現役の経営者の「思い」や「希望」も大切にしたいものです。経営理念、ビジョンという形式で要求事項に含みます。

PMBOK
PMBOKの構成は「プロジェクトマネジメント標準」、「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」の2つからなります。「プロジェクトマネジメント標準」は「価値実現システム」「プロジェクトマネジメントの原理・原則」の2つで構成されています。
価値実現が一番目にあることが重要です。素晴らしい運営のプロジェクトの成果物が、組織に何の価値をもたらさないならば、無駄なプロジェクトであるということです。そしてプロジェクトは、マネジャー、チーム、プロジェクトによって影響を受ける各組織、また外部環境などによる影響を受け、プロジェクトを承認した上部組織の監理監督の影響を受けます。多様で複雑な利害関係者の中でチームが価値を創出しなければなりません。これは、会社の経営と何ら変わるものではありません。

プロジェクトマネジメント十二の原理原則 
1 スチュワードシップ
スチュワードはコンプライアンスを維持しながら、誠実さを保ち、他者の面倒を見て、信頼されながら諸活動を実行するために責任を持って行動する。そして、自らが支えるプロジェクトの財務上の影響、社会的な影響、そして環境面での影響への幅広いコミットメントを示す。スチュワードとは、辞書では「古来の欧州の封建制度における執事(執政)等に相当する役職。のちにバトラーと兼任することが多くなり、名称としてはあまり用いられなくなった。」とあります。
2 共同的なプロジェクト・チーム環境を構築すること
プロジェクト・チームは、多様なスキルや知識、経験を有する個人から構成される。共同して作業するチームは、個人で作業する場合に比べ、共通の目標をより効果的かつ効率的に達成できる。役割と責任を明確にすることで、チームの文化を改善できる。プロジェクトチーム内で、特定のタスクを個々人に委任することもあれば、プロジェクト・チーム・メンバー自身で選択することもある。異なる視点を併せ持つことで、プロジェクトを改良できる。
3 ステークホルダーと効果的に関わること
ステークホルダーを特定し、分析し、プロジェクトの最初から最後まで積極的に関与してもらうようにすることが成功につながる。
4 価値に焦点を当てる
プロジェクト・チームには、ビジネス・ニーズとプロジェクトの正当性、事業戦略が明らかになり、そこに組織への貢献と合意事項が必要とされる。プロジェクトがニーズに沿っており、意図した成果を実現できる見込みがあることを確認するため、望ましいアウトプット、ベースライン、そしてプロジェクトの進捗と方向性を継続的に評価する。
5 システムの相互作用を認識し、評価し、対応すること
プロジェクトは変化し続ける状況に存在する多面的なものであり、システムの特性を示している。パフォーマンスに前向きな影響を与えるため、プロジェクト内及びプロジェクト周辺の変化し続ける状況を認識し、評価し、それに対応する。
6 リーダーシップを示すこと
リーダーシップは、望ましい成果を目指すチームの内外の人々に影響を与える態度、才能、特性、振る舞いからなる。リーダーシップ・スキルは学習・開発・育成されるものである。文書化されたリーダーシップ・スタイルは幅広く、独裁型、民主主義型、自由放任型、指揮型、参加型、主張型、支援型、合意に向けた独裁型などがあるが、最善の又は推奨のリーダーシップ・スタイルは無い。むしろ、効果的なリーダーシップはそのときの状況に最も適するときに発揮される
7 状況に基づいてテーラリングすること
テーラリングとは、組織・企業が業務の基本として定めた標準プロセスや開発標準などを手直して、個別のプロジェクトや顧客の要求に合わせて実用的な標準を作成・実行することである。プロジェクトのライフサイクル内で一貫して良い成果を生み出す柔軟性を実現するような適切な方法・プロセスをテーラリングする。
8 プロセスと成果物に品質を組み込むこと
品質とは、プロダクト、サービス等が要求事項を満たしている度合いである。品質には、顧客の明示的または暗黙的ニーズを満たすことが含まれる。プロジェクトで生成されるプロダクト、サービス、または成果物は、受入側と使用側の両方で品質が測定される。
 9 複雑さに対処すること
複雑さとは、人の振る舞い、システムの振る舞い、および曖昧さのためにマネジメントするのが困難なプロジェクトやプロジェクト環境が有する特性である。
10 リスク対応を最適化すること
プロジェクトとその成果へのプラスの影響を最大限に高め、マイナスの影響を最小限に抑えるため、機会と脅威の両方のリスクを継続的に評価する。特定されたリスクは、プロジェクトで顕在化することもあれば、顕在化しないこともある。プロジェクト・チームは、ライフサイクル全体を通して、プロジェクトの内外における既知のリスクと新たに出現するリスクを特定し、評価することに努める。
11 適応力と回復力を持つこと
適応力と回復力のために次のものが含まれる。
・迅速に適応する短期のフィードバック・ループ
・継続的な学習と改善
・必要な各スキル分野における豊富な知識を持った人々を迎えた、幅広いスキル・セットを備えたプロジェクト・チーム
・改善の好機を特定するためのプロジェクト作業の定期的な検査と適応
・幅広い経験を備えた多様なプロジェクト・チーム
・内外のステークホルダーに関与を促すオープンで透明性の高い計画
・アイデアをテストし、新たなアプローチを試すための小規模なプロトタイプと実験
・新しい思考方法や作業方法を活用する能力
・チームが作業を進める速度と要求事項のバランスを取るプロセス設計
12 将来の状態のための変革ができるようにすること
プロジェクトの成果による将来の状態に移行するために、新たな手順や施策を採用により影響を受ける人々に準備を促す。チェンジマネジメントは、現状から望ましい将来の状態へと個人やグループ、組織を移行するために、繰り返し行う。強制的なアプローチよりも、動機付けを行うことが効果的である。(つづく)

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