年末調整の準備が本格化する時期ですが、国税庁は令和8年10月22日、「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」について、不具合が確認されていることを公表しました。
今回の不具合では、一定の条件に該当すると、扶養親族の所得見積額が正しく反映されず、その結果として所得金額調整控除や生命保険料控除の額が正しく算定されない可能性があります。
国税庁が提供する公式ソフトだからといって、作成された結果をそのまま利用してよいとは限りません。
今年の年末調整では、特に注意して確認する必要があります。
どのような不具合なのか
今回問題となっているのは、扶養控除等(異動)申告書に入力する扶養親族等について、次の3つの条件をすべて満たす場合です。
- 扶養親族等の年齢が23歳未満
- その扶養親族等について「他の所得者の控除対象」を「はい」としている
- 令和8年分の所得の見積額が62万円を超えている
この条件に該当すると、年調ソフト上で「扶養親族の合計所得金額」を入力できず、令和8年分の所得の見積額が0円として設定されてしまいます。
つまり、本来は所得があるにもかかわらず、ソフト上では所得がないものとして取り扱われてしまう場合があります。
国税庁は、この影響により所得金額調整控除や生命保険料控除が正しく算定されない場合があると説明しています。
なぜ控除額が過大になるのか
今回の不具合で重要なのは、単なる画面表示上の問題ではないという点です。
所得金額調整控除では、一定の給与所得者について、23歳未満の扶養親族がいることなどが控除の要件となっています。
ところが、本来は所得要件などから扶養親族に該当しない人についても、年調ソフト上では所得見積額が0円となることで、23歳未満の扶養親族を有するものとして申告書を作成できてしまうケースがあります。
その結果、所得金額調整控除額が本来より多く計算される可能性があります。
また、令和8年分からは生命保険料控除についても23歳未満の扶養親族の有無が関係する特例が設けられています。
この判定についても同様に、扶養親族がいるものとして処理されることで、生命保険料控除額が過大になる可能性があります。
さらに、作成される所得金額調整控除申告書や保険料控除申告書のXMLデータについても、対象となる合計所得金額の見積額が0円として出力されます。
電子データを給与計算ソフトへ取り込んでいる会社では、特に注意が必要です。
「他の所得者の控除対象」とは
少し分かりにくい項目です。
例えば、夫婦ともに給与所得者で子どもがいる場合に、その子どもについて自分ではなく配偶者側で扶養控除等の対象とするケースがあります。
このような場合に、「他の所得者の控除対象」を「はい」と入力します。
したがって、今回の不具合はすべての従業員に発生するものではありません。
しかし、共働き世帯が増えている現在では、決して特殊なケースとも言い切れません。
特に大学生年代の子どもがアルバイトをしている家庭などでは、所得見積額が62万円を超えるケースも考えられます。
すでに年調ソフトで申告書を作った場合は
国税庁は、不具合を修正した年調ソフトを令和8年11月中旬ごろに再リリースする予定としています。
したがって、今回の条件に該当する可能性がある場合には、現在作成されている申告書やXMLデータをそのまま利用するのではなく、内容を確認する必要があります。
会社の給与・経理担当者としては、少なくとも次の点を確認しておくことをお勧めします。
- 国税庁の年調ソフトを利用している従業員がいるか
- 23歳未満の親族を入力しているか
- 「他の所得者の控除対象」を「はい」としているか
- その親族の令和8年分所得見積額が62万円を超えていないか
- 所得金額調整控除・生命保険料控除が適用されていないか
該当する場合には、給与計算ソフトへ取り込んだデータについても確認した方がよいでしょう。
Android版には別の不具合も
国税庁は、Android端末版の年調ソフトについても別の不具合を公表しています。
作成した控除申告書について「書面出力」を選択して画面を進めると、画面がブラックアウトし、PDFを閲覧できない場合があります。
こちらについても11月中旬ごろの修正版公開が予定されています。
それまでの暫定的な対応として、国税庁は「電子データで出力する」を選択し、連携されたPDFデータを保存して閲覧する方法を案内しています。
今年の年末調整は「前年と同じ」で処理しない
令和8年分の年末調整では、基礎控除や給与所得控除、扶養親族等の所得要件など、前年から多くの変更があります。
そこへ今回、国税庁の年調ソフトの不具合が加わりました。
年末調整は毎年行う業務であるため、どうしても「昨年と同じように処理すればよい」と考えがちです。
しかし、今年については特に、前年のデータをそのまま使うのではなく、扶養親族の所得見積額や各種控除の判定を改めて確認することが重要です。
デジタル化しても、最後の確認は必要です
年末調整の電子化には、多くのメリットがあります。
従業員が入力したデータをそのまま給与システムへ取り込むことができれば、転記ミスを減らし、給与担当者の負担も軽減できます。
一方で、自動計算やデータ連携が進むほど、「ソフトが計算したのだから正しい」と考えてしまいやすくなります。
今回のケースは、デジタル化によって確認作業が不要になるのではなく、どこを人が確認すべきなのかが変わっていくことを示しているように思います。
特に税務では、一つの入力値が複数の控除判定に影響することがあります。
便利なシステムを利用しつつも、制度上の要件と計算結果が合っているかを確認することが大切です。
年末調整をこれから本格的に進める会社では、今回の国税庁の発表を給与・経理担当者で共有し、該当する従業員がいないか確認しておきましょう。
※本稿は令和8年10月26日現在の国税庁公表情報に基づいています。今後、修正版ソフトの公開や対応方法の追加案内が行われる可能性があります。