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「税務署が会社に来て、帳簿や領収書を確認する」。税務調査に、このようなイメージを持つ経営者は多いと思います。

いま、その進め方に変化が生まれています。訪問前に会計データを提出し、税務署側で分析してから実地調査に入る取組が進んでいます。訪問調査がすべてなくなるという話ではありませんが、会社を訪れる前から帳簿の検討が進むことになります。[1]

経営者にとって大切なのは、依頼を受けた時点で税理士と共有し、提出範囲・形式・期限・送付方法を確認することです。データを送信するまでの準備も、税務調査対応の一部と考えましょう。

「提出のお願い」は、どのような位置付けなのか

国税庁の令和8年10月のQ&Aは、実地調査前のデータ提出要求を質問検査権の行使と説明しています。理解・協力と承諾を前提とする一方、正当な理由のない不提出は罰則の対象になり得るという説明もあります。したがって、単なる任意のアンケートと同じには扱えません。[2・問2、5、6]

だからこそ、依頼の趣旨や必要な範囲を確かめることが重要です。抽出に時間がかかる、指定形式に対応できない、他社の情報が同じファイルに含まれるといった事情は、具体的に伝え、方法や期限を協議しましょう。

提出前に確認したい5つの項目

  1. 対象となる会社・税目・期間
    どの会社の、何年度の、どの税目に関する依頼かを確認します。複数社を管理するシステムでは、別会社のデータが混在しないよう注意します。
  2. 帳簿の種類とデータの範囲
    仕訳帳、総勘定元帳、補助元帳など、必要な資料を特定します。バックアップ一式には対象期間外の情報や付随情報が含まれることもあるため、必要な内容を確認します。
  3. 提出形式と抽出方法
    CSV、Excel、PDF、会計ソフト固有形式では、含まれる情報や分析できる内容が異なります。通常の出力機能で対応できるかを確認し、難しい場合は代替方法を相談します。
  4. 提出期限と社内の作業量
    経理担当者や税理士による確認の時間も必要です。業務上の事情と準備に要する日数を伝え、現実的な期限を協議します。
  5. 送付先と送付方法
    担当者、宛先、指定された提出経路を確認します。不審なメールは、そのメール内の連絡先だけを頼りにせず、税務署の公表電話番号等から確認します。

会計データの確認は、「都合の悪い情報を削る作業」ではありません

提出用データは、決算・申告の基礎となった帳簿と照合します。対象期間、仕訳件数、合計額、繰越残高、決算整理仕訳の反映状況などを確認することで、抽出漏れや別バージョンの送付を防げます。

過年度の修正履歴や取引の背景について説明が必要なら、その経緯を整理します。調査に備えて事実に反する書換えをしたり、必要な記録を削除したりしてはいけません。範囲外の情報の除外やマスキングについても、税理士を通じて必要性と方法を確認して進めることが大切です。

税理士の役割は、訪問当日の立会いだけではなくなる

データ提出前から、税理士が関与する意味は大きくなります。依頼内容を確認し、会社のシステムや業務の事情を踏まえ、必要な資料を整理する。提出した数字について、取引の実態や会計処理の理由を説明できるようにする。こうした準備が、認識の食い違いを減らします。

データ上で金額や日付の動きが目立っても、そのことだけで税務上の誤りが決まるわけではありません。季節変動、取消し、返金、決算整理など、数字の背景を確認する必要があります。税理士は、その背景と税務上の判断をつなぎ、必要な説明と納税者の権利の確認を担います。

送信後の保存・利用についても確認する

国税庁は、課税処分の証拠として保存が必要な情報について通常7年の保存期間を設定すると説明しています。また、取得情報を他事案の調査や行政指導に使う場合があるとしています。すべての提出データが一律7年保存されるという意味ではありません。[2・問10~12]

会社側では、提出したファイルの控え、ファイル名、対象期間、提出日、送付先、依頼内容を記録しましょう。暗号化やアクセス制限は当局と合意した送付方法に合わせ、不要な公開リンクや共有アカウントの利用を避けます。システムへの直接アクセスを求められた場合には、権限の範囲と利用期間も確認します。

海外でも活用は進む。ただし、効果の読み方には注意が必要

フランスでは、Deloitte Société d’Avocatsが2017年に公表した235社への調査で、税務調査時に会計仕訳ファイルを要求された割合は97%、利用された割合は75%と報告されています。古い調査で大企業が多いという限界はありますが、データ取得・分析が実務で行われていたことを示します。[3]

英国では、情報公開請求を行った法律事務所の公表によると、税務当局の分析システム「Connect」を約4,300人の職員が利用しています。ただし、これは幅広い情報の照合であり、調査で提出した帳簿だけの利用実績ではありません。米国にも、会計データを含む資料の提出範囲が実際に争われた裁判例があります。[4][5]

こうした海外の実績から、電子データの分析が普及していることは確認できます。しかし、それだけで納税者の対応時間や費用が減ったと結論付けることはできません。

まずは「依頼内容を税理士と共有する」ことから

税務調査のデジタル化に備えるために、特別なことから始める必要はありません。日頃から帳簿と証憑を対応させ、修正の経緯を残し、必要なデータを正確に取り出せるようにしておくことが基本です。

提出依頼を受けたら、経理担当者だけで判断せず、経営者と税理士で内容を共有しましょう。藁総合会計事務所は、東京・品川区の税理士事務所として、帳簿の整備から税務調査への対応まで、取引の実態を踏まえた説明と適切な手続を大切にしています。

参考資料・出典

各媒体に転載する際は、その媒体で引用した参考資料を末尾に残してください。以下の番号は本文の参照番号に対応しています。

  1. 国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼に関する取組等について」
  2. 国税庁「税務調査等における帳簿等データの提出依頼等に関するQ&A」令和8年10月。提出要求の位置付けは問2・5・6、保存・利用は問10~12。
  3. Deloitte Société d’Avocats「Quel contrôle pour le Fichier des Ecritures Comptables ? La parole aux entreprises」(2017年3月11日)。235社の回答。要求97%・利用75%はこの標本の報告であり、現在の全国統計ではない。
  4. Pinsent Masons「HMRC finds value in ‘big data’ after bringing in extra £4.6billion」(2025年10月8日)。情報公開請求者による当局回答の報告。Connectの実績を、提出帳簿のみの効果と解釈しない。
  5. United States v. Johnson, No.1:24-mc-13, Order, 2025年12月11日(裁判所文書の転載)。報酬繰延べプログラム提供者に対する資料提出要求の事案であり、一般の中小企業調査の代表例ではない。
  6. ナント行政控訴院2024年5月2日判決・23NT00432。消去規定の趣旨と当初の課税への影響を判断。消去義務違反の発生を確定した判決としては扱わない。

 

本稿は2026年10月21日時点の公表資料に基づく一般的な解説です。個別の提出範囲や対応は、依頼内容と事実関係に応じて確認が必要です。