食料品の消費税1%で有利・不利が変わる―簡易課税・原則課税の選択と「2年縛り」
食料品の消費税率が1%になると、食品販売店と飲食店では、消費税の納税額に異なる影響が生じます。これまで有利だった計算方法が、税率変更後も有利とは限りません。
本記事は、令和8年9月15日閣議決定の大綱と、2026年10月7日までに確認した公表資料に基づきます。税率引下げと関連特例は、法案が国会で可決・成立した場合の内容です。
1.原則課税と簡易課税の違い
原則課税は、売上税額から、実際の仕入れや経費に係る控除可能な税額を差し引く方法です。簡易課税は、売上税額と業種別の「みなし仕入率」を使って控除額を計算する方法で、実際の経費の消費税額を直接使いません。
簡易課税は、原則として基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、必要な届出をしている事業者が対象です。通常の飲食店業は第4種事業で、みなし仕入率は60%です。ただし、複数事業を営む場合は売上げの事業区分も確認します。
2.店内飲食中心の飲食店は、簡易課税が有利になる可能性
店内飲食の売上税率が10%、食材の仕入税率が1%になると、原則課税で差し引ける仕入税額が減少します。一方、店内飲食の簡易課税は、売上税額に対するみなし仕入率で計算します。
次の例は、すべて税抜金額、売上げは店内飲食のみ、仕入税額は全額控除可能、金額は変更前後で同じとした比較です。税額には地方消費税を含み、端数処理等を省略しています。
| 項目 | 食材8% | 食材1% |
|---|---|---|
| 店内飲食売上3,000万円の税額 | 300万円 | 300万円 |
| 食材仕入1,500万円の税額 | 120万円 | 15万円 |
| その他の控除可能経費800万円・10%の税額 | 80万円 | 80万円 |
| 原則課税の納税額 | 100万円 | 205万円 |
| 簡易課税の納税額(みなし仕入率60%) | 120万円 | 120万円 |
この条件では、改正前は原則課税の納税額100万円が、簡易課税の120万円より20万円少なくなります。改正後は原則課税が205万円となり、簡易課税の120万円の方が85万円少なくなります。つまり、食材の税率変更によって、有利な計算方法が逆転する例です。ただし、多額の設備投資や改装がある年は結果が変わります。人件費は通常、消費税の課税仕入れに該当しないため、経費総額だけで比較することもできません。
3.食品販売は、簡易課税の新たな特例を含めて比較する
改正案では、簡易課税を適用する場合、1%対象の飲食料品販売に係る売上税額と同額を、仕入税額として控除する特例が示されています。つまり、この売上部分からの納税額は計算上ゼロになります。その他の売上部分は、みなし仕入率で計算します。
これは、売上げに消費税がかからないという意味ではありません。また、実際の仕入税額が売上税額を上回る場合に、その超過分の還付を受ける仕組みでもありません。食品販売では、原則課税による還付の可能性と、簡易課税の特例を含む納税額の両方を比較します。持ち帰りと店内飲食を併営する店舗は、それぞれの売上げを区分した試算が必要です。
4.原則課税から簡易課税へ―通常の期限を先に確認
簡易課税制度選択届出書の提出期限は、原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日です。
今回公表されている飲食料品の特例案は、主として「簡易課税から原則課税へ」変更するためのものです。「原則課税から簡易課税へ」変更する期限を一律に延長する特例は、確認した資料では示されていません。なお、2割特例・3割特例の適用後や免税事業者のインボイス登録などには別の届出特例があり、自社が該当するかは分けて確認します。
課税期間を短縮していない通常の1年決算法人について、令和9年4月1日を含む課税期間から簡易課税を適用する場合の、通常ルールによる届出期限は次のとおりです。
| 決算月 | 提出期限 | 2026年10月7日時点 |
|---|---|---|
| 4~9月 | 令和8年の各決算日 | 期限経過 |
| 10月 | 令和8年10月31日 | 期限前 |
| 11月 | 令和8年11月30日 | 期限前 |
| 12月 | 令和8年12月31日 | 期限前 |
| 1月 | 令和9年1月31日 | 期限前 |
| 2月 | 令和9年2月28日 | 期限前 |
| 3月 | 令和9年3月31日 | 期限前 |
例えば9月決算法人は、令和8年10月1日から令和9年9月30日までの期について、通常の期限が令和8年9月30日でした。個人事業者が令和9年分から適用する場合は、通常、令和8年12月31日までに提出します。申告期限まで待って選ぶ制度ではありません。
5.簡易課税から原則課税へ―食品販売事業者向けの特例案
飲食料品の販売を行う簡易課税事業者については、令和9年4月1日を含む課税期間中に、当該課税期間から適用をやめる旨を記載した簡易課税制度選択不適用届出書を提出すれば、その課税期間から原則課税に移れる特例案があります。この課税期間については、簡易課税の2年間の継続適用要件も適用しない内容です。
この特例案を利用するときは、届出書の参考事項欄に「飲食料品特例」と記載する取扱いが示されています。店内飲食だけを営む事業者が、食材を購入しているという理由で対象になるとは判断できません。1%対象の飲食料品販売を行っているか確認する必要があります。
6.簡易課税の「2年縛り」は、原則として残ります
簡易課税は、毎年の申告時に自由に選び直せる制度ではありません。通常、選択すると少なくとも2年間は継続適用が必要です。今回の改正案も、すべての事業者について2年縛りを廃止する内容ではありません。
| ケース | 2年縛りの扱い |
|---|---|
| 食品販売事業者が、令和9年4月1日を含む課税期間から簡易課税をやめる | 2年未満でも原則課税へ変更できる特例案 |
| 店内飲食だけの飲食店が、新たに簡易課税を選ぶ | 通常の2年縛りが残る |
| 食品販売事業者が、上記以外の課税期間から簡易課税をやめる | 原則として通常の2年縛り |
食品販売事業者向けの解除特例は、令和9年4月1日を含む課税期間から原則課税へ移るためのものです。その期に簡易課税を続けた事業者が、翌期以降も毎年自由に変更できるという意味ではありません。持ち帰り販売も行う飲食店は、飲食料品の販売の実態と、変更する課税期間を確認します。
3月決算の飲食店が、令和9年4月から簡易課税を選ぶ例
課税期間を短縮していない、店内飲食専業の3月決算法人が、通常ルールで令和9年4月1日から簡易課税を適用する場合を考えます。基準期間の課税売上高等の要件を満たし、移行制限がないことが前提です。
| 時期・課税期間 | 対応・計算方法 |
|---|---|
| 令和9年3月31日まで | 簡易課税制度選択届出書を提出 |
| 令和10年3月期(令和9年4月~令和10年3月) | 簡易課税を適用・1年目 |
| 令和11年3月期(令和10年4月~令和11年3月) | 簡易課税を適用・2年目 |
| 令和11年3月31日まで | 翌期から原則課税へ戻すなら、簡易課税制度選択不適用届出書を提出 |
| 令和12年3月期(令和11年4月~令和12年3月) | 適切に届出をすれば原則課税へ戻れる |
この例では、簡易課税の2年間と、予定されている食料品税率1%の期間が一致します。令和11年3月期は、初日から2年を経過する日が属する課税期間なので、翌期からやめるための不適用届出書を提出できます。ただし、2年経過しても、自動で原則課税へ戻るわけではありません。届出をしなければ、適用要件を満たす課税期間には簡易課税が続きます。
12月決算法人など、税率変更日と期首が一致しない事業者では、簡易課税の2年間と税率引下げの2年間は一致しません。税率が戻る前後の期間も含めて比較する必要があります。
7.期限が過ぎたら、事業年度を変更するしかない?
通常期限が過ぎていれば、すでに開始した課税期間へ簡易課税を遡って適用することは原則できません。ただし、「4~9月決算法人は事業年度変更しかない」とまで一律に言い切るのは適切ではありません。
別の届出特例に該当するかを確認し、該当しない場合には、次の課税期間から簡易課税へ移る方法があります。事業年度を変更して新たな課税期間を設け、その開始前に届出する方法も検討の余地はありますが、変更前の期間へ遡るものではありません。
決算期を変更すると、法人税申告、基準期間の判定、納税時期等にも影響します。消費税の差額だけで決めず、実際の適用開始日と申告費用を含めて検討してください。
8.税額・届出期限・2年縛りをセットで判断する
選択の判断は、今期の税額差だけで終えないことが大切です。2年縛りの対象期間、期間中の設備投資、店内飲食と持ち帰りの売上比率、食料品税率が戻る時期も織り込んで判断します。高額資産の取得等による簡易課税への移行制限にも注意が必要です。
まずは、現在の計算方法、届出済みの書類、基準期間の課税売上高、決算期、今後の設備投資予定を確認しましょう。東京・品川区の藁総合会計事務所では、税額比較と届出期限の確認を通じて、事業に合った選択をお手伝いしています。