「銅スクラップの買い取りは、これまでインボイスがなくても消費税を控除できていた。今後も同じ処理でよいのでしょうか」
金属スクラップを扱う事業者にとって、2026年9月1日からの「特定金属くず特例」は、仕入れの経理処理と営業の届出の両方に関係する制度です。
結論からいうと、対象となる金属くずについて、帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けるには、金属盗対策法に基づく買受業の届出などの要件を満たす必要があります。従来と同じように帳簿を付けていればよい、というわけではありません。
特定金属くず特例とは
消費税の仕入税額控除とは、売上げに係る消費税から、仕入れなどに係る消費税を差し引く仕組みです。一般課税では、原則として帳簿とインボイス等の保存が必要ですが、一部の取引には帳簿だけで控除できる特例があります。
特定金属くず特例は、その一つです。令和8年度税制改正で創設され、2026年9月1日以後に行う課税仕入れから適用されています。
この制度は、銅線などの盗難対策を目的とする「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」、いわゆる金属盗対策法に基づく届出制度と結び付いています。
適用を受けるための条件
| 確認する項目 | 内容 |
|---|---|
| 買い手 | 金属盗対策法に基づく特定金属くず買受業の届出を行っていること |
| 売り手 | 適格請求書発行事業者、つまりインボイス発行事業者ではないこと |
| 対象物 | 金属盗対策法に規定する特定金属くずであること |
| 購入目的 | 買い手の棚卸資産として買い受けること。消耗品は除きます |
| 記録 | 必要事項を記載した帳簿を保存すること |
例えば、届出済みのスクラップ業者が、インボイス未登録の事業者や一般の個人から、販売用の対象スクラップを買い取る場合です。自社で使う備品や消耗品として購入する場合まで、同じ特例が適用されるわけではありません。
金属くずなら何でも対象になるわけではありません
特定金属くずは、主として銅など法令で対象とされた金属で構成される金属くずです。銅については、重量または価額の50%以上を占めるかが判断に関係し、真鍮や青銅などの合金も対象となることがあります。
ただし、物品の製造過程で生じる端材と、古物営業法上の古物は除かれます。鉄やアルミを含め、金属スクラップをすべて一括してこの特例で処理することはできません。
例えば、エアコンの室外機でも、取り外しただけで本来の用途で使用できるものは古物に該当します。一方、潰れて修復できず、本来の用途で使用できないものは金属くずとして扱われ、銅の割合などによって特定金属くずへの該当性を判断します。
同じ「スクラップ」という呼び方でも、材質、発生過程、再使用できる状態かによって扱いが変わる点に注意してください。
従来の再生資源等特例との違い
今回の改正では、対象の特定金属くずを、従来の古物商特例・再生資源等特例の対象から除き、新しい特例に移しています。
古物商の許可があることや、以前から再生資源等特例を使っていたことだけでは、新しい特例の要件を満たしません。特定金属くず買受業の届出を別途確認する必要があります。
製造端材、中古品、銅スクラップなどを混在して扱う事業者では、品目ごとに適用する制度を整理しておきましょう。
帳簿に必要な記載事項
特例を使う場合も、取引の記録が不要になるわけではありません。帳簿には、次の事項を記載します。
- 仕入先の氏名または名称
- 仕入れを行った年月日
- 仕入れた物の内容
- 支払った税込金額
- 特定金属くず特例の対象となる旨
- 仕入先の住所または所在地
ただし、金属盗対策法上、本人特定事項として住居等の確認を行うこととされていない取引は、住所・所在地の記載が不要です。
経理では、品名や金額だけでなく、摘要などに「特定金属くず特例対象」と記録できる運用を整えましょう。税務上の帳簿と、金属盗対策法上の本人確認・取引記録の義務は、それぞれ確認する必要があります。
税込11万円で買い取った場合の例
届出済みの業者が、インボイス未登録の相手から、販売用の対象銅スクラップを税込11万円で買い取ったとします。
特例の要件を満たせば、インボイスがなくても、11万円に含まれる消費税・地方消費税相当額1万円を仕入税額控除の計算に含めることができます。
これは、一般課税で、全額控除できる用途に使用する場合の例です。実際の控除額は課税売上割合や仕入れの用途等によって変わります。簡易課税では、実際の仕入税額ではなく、売上税額とみなし仕入率により計算します。
届出をしないとどうなるのでしょうか
未届出で買受業を営むと、罰則の対象になります
特定金属くず買受業の届出は、営業所ごとに、所在地を管轄する都道府県公安委員会へ行います。
未届出で対象の買受業を営むと、6か月以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、またはその両方の対象となります。2026年6月1日時点で営業していた事業者の猶予期間も終了しており、2026年9月1日以降は未届出で対象の買受業を営むことはできません。
「消費税の特例を使わなければ届出をしなくてもよい」という選択はできない点に注意が必要です。
特例による帳簿だけの仕入税額控除も使えません
届出をしていない場合、特定金属くず特例は適用できません。また、対象の金属くずについて、従来の古物商特例・再生資源等特例に振り替えて処理することもできません。
ただし、未届出だから、すべての仕入税額控除が一律にゼロになるわけではありません。インボイスを保存する通常の控除や、未登録事業者からの仕入れに係る経過措置など、別の制度の適用可否はそれぞれの要件で判断します。
税務上の控除が認められる場合でも、未届出営業の問題は解消されません。営業上の義務と消費税の計算は、分けて確認してください。
スクラップを売るだけの会社にも届出が必要ですか
この届出は、特定金属くずを買い受ける事業を営む側に関するものです。自社で発生したスクラップを回収業者へ売却するだけで、買受業を営んでいない会社は、その売却だけを理由に買受業の届出を行うものではありません。
また、今回の特例は買い手の仕入税額控除に関する制度です。売り手の消費税が免除される制度ではなく、課税事業者が事業として売却する場合は、売上げに係る消費税の処理を別途確認します。
経営者・経理担当者が確認したいこと
- 扱っている物が、特定金属くず、製造端材、古物のどれに該当するか
- 対象の買受業について、営業所ごとに届出を済ませているか
- 仕入先のインボイス登録状況を確認しているか
- 買い取る物が棚卸資産に該当し、消耗品ではないか
- 帳簿に特例対象の旨と、必要な仕入先情報を記録しているか
- 2026年9月1日以後も、従来の処理をそのまま続けていないか
税理士としてお伝えしたいこと
この制度で大切なのは、消費税の計算だけを確認して終わらせないことです。現場の買い取り、営業所の届出、経理の記録を結び付けて管理する必要があります。
未届出が判明した場合は、対象の買い取りを続けず、営業所を管轄する警察署へ速やかに相談してください。そのうえで、未届出期間の仕入れや、すでに行った消費税申告の処理を確認しましょう。
東京・品川区の藁総合会計事務所では、対象取引の整理や消費税の経理処理についてご相談を承っています。「自社が対象か分からない」「これまでの処理でよいか不安」という場合は、取扱品目や仕入記録を確認しながら検討することが、対応の第一歩です。
参考資料
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」
- 国税庁「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」
- 国税庁「仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項」
- 警視庁「特定金属くず買受業に関するお知らせ」
- 神奈川県警察「特定金属くず買受業・よくあるお問合せ」
本記事は2026年10月5日時点で確認した情報に基づきます。個別の取扱品目や取引内容により判断が変わるため、具体的な適用は関係資料を確認して検討してください。