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東京都最低賃金1,280円―月給社員も確認が必要です

東京都の最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,280円に引き上げられます。

現在の1,226円から54円、率にすると約4.4%の引上げです。

最低賃金というと、「時給で働くパート・アルバイトの問題」と考えられがちです。しかし、最低賃金は正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず適用されます。

特に注意したいのが、月給制の社員です。給与総額が20万円を超えていても、所定労働時間や手当の内訳によっては、最低賃金を下回る可能性があります。

最初に結論―9月中に全社員の給与を確認してください

東京都内の事業者は、10月1日までに、少なくとも次の確認が必要です。

  • 時給者の時給が1,280円以上になっているか
  • 日給者・月給者を時間額に換算して1,280円以上になるか
  • 最低賃金の計算に含められない手当を除外しているか
  • 10月1日以降の勤務分について、新しい賃金が適用されるか
  • 給与規程、雇用契約書、求人票などの金額が一致しているか

給与計算ソフトの時給単価だけを変更して終わりではありません。月給社員を含め、従業員ごとに判定することが重要です。

東京都最低賃金は10月1日から1,280円

区分時間額適用期間
改定前1,226円2026年9月30日まで
改定後1,280円2026年10月1日から

東京都最低賃金は、原則として東京都内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、試用期間中の社員、外国人労働者なども対象です。

派遣労働者については、派遣元の所在地ではなく、原則として派遣先の事業場に適用される最低賃金で判断します。

月給社員は時間額に換算して判定します

月給制の場合は、原則として次の計算により最低賃金を確認します。

最低賃金の対象となる月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間数

「1か月平均所定労働時間数」は、実際にその月に勤務した時間ではなく、会社の年間休日や勤務カレンダーを基に計算します。

年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月

月平均160時間の場合

最低限必要となる対象賃金は、次のとおりです。

1,280円 × 160時間 = 204,800円

月平均168時間の場合

1,280円 × 168時間 = 215,040円

月平均173.8時間の場合

1,280円 × 173.8時間 = 222,464円

したがって、「月給21万円だから問題ない」とは一概にいえません。会社ごとの年間所定労働時間と、最低賃金に算入できる賃金の内訳を確認する必要があります。

すべての手当を含められるわけではありません

最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。実際の給与総額から、次の賃金を除外して判定します。

  • 結婚手当など、臨時に支払われる賃金
  • 賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外労働に対する賃金や割増賃金
  • 休日労働に対する賃金や割増賃金
  • 深夜労働の割増部分
  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

給与総額22万円でも下回る例

次の月給社員を考えてみます。

基本給190,000円
職務手当10,000円
通勤手当10,000円
精皆勤手当10,000円
給与総額220,000円

通勤手当と精皆勤手当は、最低賃金の判定に含めることができません。対象となる賃金は20万円です。

月平均所定労働時間が160時間であれば、

200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円

となり、給与総額は22万円でも、10月1日以降の東京都最低賃金1,280円を下回ります。

「固定残業代を含めれば大丈夫」とは限りません

固定残業代を支給している会社も注意が必要です。

時間外労働に対する賃金は、最低賃金との比較から除外されます。したがって、基本給と固定残業代を合計した給与総額だけで判断することはできません。

さらに、固定残業代については、通常の賃金部分と残業代部分が明確に区分され、対象となる時間数や計算方法が適切に定められているかという別の問題もあります。

最低賃金の改定を機に、固定残業代の設計も確認しておくことをおすすめします。

10月1日をまたぐ給与計算にも注意

新しい最低賃金は、原則として2026年10月1日以降に働いた時間に適用されます。

たとえば、給与計算期間が9月21日から10月20日までの場合、9月30日までの勤務と10月1日以降の勤務が同じ給与計算期間に含まれます。

時給を改定する場合は、10月1日を境に新旧の時給を分けて計算できるよう、給与計算ソフトの設定を確認してください。

最低賃金の引上げは周辺社員にも影響します

最低賃金に近い社員だけを一律に引き上げると、経験年数や責任の違いが給与に反映されなくなることがあります。

たとえば、新人の時給が1,280円になった一方、教育担当者が1,300円のままであれば、責任の差に対して賃金差がわずか20円になってしまいます。

これは「賃金の逆転」や「賃金の圧縮」と呼ばれる問題につながります。法令上の最低額を守るだけでなく、次のような給与体系全体の確認が必要です。

  • 新人と経験者の賃金差
  • 一般社員とリーダー・管理担当者の賃金差
  • 職務や資格に対する手当の位置付け
  • パート社員と月給社員の時間単価のバランス
  • 採用時の提示額と既存社員の給与との整合性

人件費は時給の差額だけではありません

時給を引き上げると、会社の負担は単純な時給差額だけでは終わりません。

  • 残業単価や休日労働単価への影響
  • 雇用保険料や労災保険料への影響
  • 社会保険の標準報酬月額への影響
  • 有給休暇取得時の賃金への影響
  • 賞与や退職金を基本給に連動させている場合の影響

年間の資金繰りを考える際は、「54円×勤務時間」だけでなく、法定福利費や周辺社員の賃金見直しも含めて試算する必要があります。

経営者が9月中に確認したいチェックリスト

  • 従業員全員の賃金台帳を確認した
  • 月給者・日給者も時間額に換算した
  • 通勤手当、家族手当、精皆勤手当などを除外した
  • 固定残業代を除いて判定した
  • 年間所定労働時間を会社カレンダーから確認した
  • 10月1日以降の勤務分に新賃金を適用できるようにした
  • 雇用契約書、給与規程、求人票を見直した
  • 経験者や責任者との賃金差も確認した
  • 社会保険料を含めた年間人件費を試算した
  • 利用できる助成制度を確認した

最低賃金上昇を「人件費増」だけで終わらせない

最低賃金の引上げは、中小企業にとって重い負担です。価格転嫁が難しい会社では、利益や資金繰りにも直接影響します。

一方で、賃金の見直しを単なるコスト増として処理するだけでは、翌年以降のさらなる引上げに対応できません。

業務の重複、手入力、待ち時間、過剰な承認手続、採算の低い取引などを見直し、1時間当たりに生み出す付加価値を高める必要があります。

設備投資やシステム導入と賃金引上げを行う中小企業については、業務改善助成金などを利用できる可能性もあります。ただし、助成金には申請時期や賃上げ実施時期などの要件があるため、支出や賃上げを実施する前の確認が大切です。

税理士としての見解

最低賃金の問題は労務の問題ですが、その影響は利益計画、資金繰り、社会保険料、価格設定にまで及びます。

まず必要なのは、法律上の最低額を確実に守ることです。そのうえで、単価の見直し、業務効率化、採用方針、社員の役割分担を一体として考える必要があります。

特に人件費率の高い事業では、10月分の給与計算直前ではなく、9月中に年間人件費の再計算を行うことをおすすめします。

給与規程や固定残業代などの労務上の判断については、必要に応じて社会保険労務士へ確認し、税理士とは利益計画や資金繰りへの影響を検討してください。

まとめ

東京都最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,280円になります。

確認が必要なのは、時給で働く人だけではありません。月給社員についても、最低賃金に含められない手当を除き、1か月平均所定労働時間で割って判定する必要があります。

最低賃金への対応は、給与計算だけの問題ではありません。会社全体の賃金バランス、年間人件費、価格設定、生産性を見直す機会でもあります。

藁総合会計事務所では、東京・品川区の中小企業を中心に、賃上げ後の人件費試算、利益計画、資金繰りについてご相談を承っています。10月を迎える前に、自社の給与設定を一度確認しておきましょう。

参考資料

※本記事は2026年9月15日現在の情報を基にしています。個別の労働条件や賃金規程により判断が異なる場合があります。