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「相続対策は、親が高齢になってから考えればよい」「自分はまだ40代だから関係ない」――そう考える方は少なくありません。

しかし、40代は、親の相続を考える立場であると同時に、自分自身に万一のことがあった場合に、配偶者や子どもの生活を守る立場でもあります。住宅、預貯金、保険、株式、会社の株式、借入金、デジタル資産など、気づかないうちに「引き継ぐべきもの」は増えています。

相続準備で本当に危険なのは、相続税を払うことだけではありません。財産の所在が分からない、家族で意向が共有されていない、会社の株式や経営権が動かせない、必要な資金をすぐ使えない、といった問題です。

最初に結論――40代の相続準備は「節税」から始めない

40代からの相続準備で最初に行うべきことは、多額の贈与や不動産購入ではありません。次の3点です。

  1. 財産・負債・契約の全体像を見えるようにする
  2. 誰に、何を、どのように引き継ぎたいかを考える
  3. 病気や事故で判断・意思表示ができなくなった場合の備えをつくる

税金の対策は、この土台を整えた後に検討します。相続対策は「税額を減らす対策」ではなく、「家族や会社が困らずに引き継げる状態をつくる対策」と考えるのが実務的です。

なぜ40代から考える必要があるのか

1.親の相続と自分の相続が同時に視野に入る

40代になると、親の財産管理や介護について話し合う機会が増えます。一方、自分にも配偶者、子ども、住宅ローン、勤務先の制度、生命保険などがあります。経営者であれば、自社株、会社への貸付金、個人保証、事業用不動産も加わります。

つまり、40代の相続準備は「親から何を受け取るか」だけでなく、「自分が何を残すか」を並行して考える必要があります。

2.相続は、年齢に関係なく突然始まる

相続開始の時期は選べません。病気だけでなく、事故や災害によって突然発生することもあります。準備がないまま相続が始まると、家族は悲しみの中で、財産調査、相続人の確認、遺産分割、名義変更、申告・納税を進めることになります。

3.判断能力が低下すると、できる対策が限られる

遺言や贈与、家族信託、任意後見などは、本人の意思と判断能力が重要です。認知症などにより契約内容を理解して意思表示することが難しくなってからでは、希望どおりの仕組みをつくれないことがあります。時間があること自体が、40代の大きな強みです。

相続税がかからなくても、相続対策は必要

相続税の基礎控除額は、次の算式で計算します。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、原則として相続税はかかりません。

ただし、税金がかからないことと、手続が簡単であることは別問題です。自宅を誰が相続するか、預金をどのように分けるか、未成年の子どもを誰が支えるか、会社を誰が継ぐか、といった問題は、相続税の有無にかかわらず生じます。

40代から整えたい7つの相続準備

1.財産と負債の一覧をつくる

まず、次の項目を一覧にします。金額を一円単位まで確定する必要はありません。最初は「どこに、何があるか」が分かれば十分です。

  • 預貯金、証券口座、暗号資産
  • 自宅、賃貸不動産、共有不動産
  • 生命保険、損害保険、勤務先の死亡退職金
  • 自社株、会社への貸付金、事業用資産
  • 住宅ローン、事業借入、連帯保証
  • クレジットカード、継続課金、オンラインサービス
  • 貸金庫、重要書類の保管場所

パスワードそのものを一覧表に書く必要はありません。家族が存在すら知らない口座や契約をなくすことが第一歩です。一覧は年に一度、誕生日や年末などに更新すると続けやすくなります。

2.相続人と家族関係を確認する

再婚、前婚の子、養子、内縁関係、きょうだいとの共有財産などがある場合、本人の感覚と法定相続人の範囲が一致しないことがあります。家族構成が複雑な場合ほど、早い段階で戸籍関係と希望する承継先を整理しておく必要があります。

3.生命保険と緊急資金を確認する

死亡直後には、葬儀費用、当面の生活費、住宅費、教育費などの資金が必要です。生命保険は、必要な人へ資金を届ける手段になり得ますが、受取人が古いままになっていないか、保障額が現在の家族状況に合っているかを確認します。

相続人が受け取る死亡保険金には、相続税上「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。ただし、契約者・被保険者・受取人の組合せによって、相続税、所得税または贈与税のいずれが課税されるかが変わるため、契約形態の確認が必要です。

4.遺言が必要かを検討する

財産の大部分が自宅や会社株式で均等に分けにくい場合、子どもがいない夫婦、再婚家庭、相続人以外に財産を残したい場合などは、遺言の必要性が高くなります。

自筆証書遺言については、法務局の保管制度を利用できます。制度を利用して保管された遺言書は、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。ただし、遺言の内容が家族関係や税務まで適切に設計されていることを保証する制度ではありません。重要な案件では、公正証書遺言や専門家による内容確認も検討します。

5.判断能力が低下した場合への備えを考える

相続対策は、死亡後だけの問題ではありません。認知症、病気、事故などで本人が財産管理や会社経営の判断をできなくなった期間への備えも必要です。

財産や目的に応じて、家族信託、任意後見、代理権の整備、会社の定款・株主構成・役員体制の見直しなどを検討します。どの制度にも費用、管理負担、権限の限界があります。「認知症対策にはこれ一つで十分」という万能な仕組みはありません。

6.生前贈与は、目的と記録を明確にする

生前贈与は、早く始めるほど期間を確保しやすい一方、単に毎年110万円を移せばよいというものではありません。贈与者の老後資金を不足させないこと、受贈者が贈与を受けた事実を認識して財産を管理すること、贈与契約や送金記録を残すことが重要です。

暦年課税による贈与については、2024年1月1日以後の贈与から、相続税の課税価格に加算する対象期間が段階的に最長7年へ延長されました。相続時精算課税には年110万円の基礎控除が設けられましたが、一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできません。

どちらが有利かは、贈与する財産の種類、将来の値上がり、相続までの期間、相続人、贈与者の生活資金によって変わります。制度名や非課税枠だけで選ばないことが大切です。

7.経営者は、自社株と「経営の空白」を確認する

中小企業の経営者には、家庭の相続と会社の承継が同時に起こります。自社株の評価額だけでなく、誰が議決権を持つのか、代表者不在時に支払いや契約を誰が決裁するのか、個人保証や会社への貸付金をどう扱うのかを確認します。

後継者が決まっていない場合でも、緊急時の連絡先、銀行取引、重要契約、給与・税金の支払手順を整理できます。事業承継は、後継者へ株式を渡す日の話ではなく、経営を止めない仕組みづくりです。

よくある誤解

「財産が少ないから何もしなくてよい」

遺産分割でもめるかどうかは、財産額だけでは決まりません。分けにくい自宅、共有不動産、家族間の認識の違いがあれば、相続税がかからなくても調整が必要です。

「毎年110万円を渡せば、相続対策は完成する」

贈与の成立、資金管理、相続前贈与の加算、贈与者の生活資金など、複数の論点があります。贈与だけを先行させると、かえって家族関係や資金計画を崩す場合があります。

「遺言を書けば、すべてそのとおりになる」

遺留分への配慮、財産の記載漏れ、遺言執行者、納税資金、財産評価などを検討する必要があります。また、時間の経過で家族や財産が変化すれば、遺言の見直しも必要です。

「相続税対策として不動産を買えばよい」

不動産は評価や収益、借入、空室、修繕、換金性、遺産分割まで含めて判断すべきです。税負担だけを見て購入すると、家族に管理しにくい資産や借入を残す可能性があります。

具体例――40代の会社経営者の場合

48歳の会社経営者に、配偶者と中学生・高校生の子どもがいるとします。財産は自宅、預貯金、生命保険、自社株、会社への貸付金で、住宅ローンと会社借入の個人保証があります。

この場合、最初に行うべきことは、自社株の贈与ではありません。次の順序で確認します。

  1. 家族の生活費・教育費と保険保障が十分か
  2. 住宅ローンに団体信用生命保険があるか
  3. 自社株、会社への貸付金、個人保証を含む財産・負債の全体像
  4. 代表者が不在になったときに会社を動かす人と権限
  5. 未成年の子どもがいる状態での遺産分割・財産管理
  6. 遺言や遺言執行者が必要か
  7. その後に、自社株承継や生前贈与の税務効果を検討

この順序であれば、節税のために生活資金を減らしたり、後継者が決まらないまま株式を移したりするリスクを抑えられます。

40代の相続準備チェックリスト

  • 財産・負債・保証の一覧がある
  • 家族が重要書類や契約の保管場所を知っている
  • 生命保険の契約者・被保険者・受取人を確認した
  • 住宅ローンや事業借入の死亡時の扱いを確認した
  • 相続人と家族関係を把握している
  • 遺言が必要な家族・財産構成か検討した
  • 判断能力低下時の財産管理方法を考えた
  • 経営者は、代表者不在時の会社運営を整理した
  • 生前贈与の目的と記録方法を決めている
  • 年に一度、一覧と方針を見直している

税理士としての見解

40代の相続対策には、「早く財産を減らさなければならない」という焦りは必要ありません。むしろ、この年代の強みは、家族と話し合い、選択肢を比較し、数年ごとに見直す時間があることです。

最初の目標は、完璧な相続計画を完成させることではありません。財産一覧を一枚つくり、家族と一度話し、必要なら遺言・保険・会社の承継体制を専門家と検討する。それだけでも「何も分からない状態」から大きく前進します。

相続対策では、節税、遺産分割、納税資金、生活保障、認知症対策、事業承継を別々に考えないことが大切です。一つの対策が別の問題を生まないか、全体を見て判断する必要があります。

まとめ――今月できる最初の一歩

まずは30分だけ時間を取り、預貯金、不動産、保険、証券、借入金、会社関係の財産を一枚に書き出してみてください。そして、「自分に何かあったとき、家族はこの一覧を見つけられるか」を確認します。

財産が基礎控除を超えそうな方、自宅や自社株など分けにくい財産が多い方、家族関係が複雑な方、事業を経営している方は、元気なうちに税理士・弁護士・司法書士などへ相談することをお勧めします。

藁総合会計事務所では、相続税額の試算だけでなく、財産の棚卸し、納税資金、遺産分割、事業承継まで含めて、実情に合った準備を一緒に整理しています。東京・品川区で相続準備にお悩みの方は、お問い合わせください。