先日、電車で座席に座っていたときのことです。
目の前でつり革につかまっていた、サラリーマン風の男性二人が、会社の会議について話していました。聞こえてきたのは、日本企業にありがちな「根回し」に対する否定的な意見です。
「会議の前に結論が決まっている」「会議は確認するだけ」「それでは議論する意味がない」――おおむね、そのような趣旨の話でした。
確かに、根回しが行き過ぎると、会議は単なる儀式になります。参加者は結論を知っていて、異論を差し挟む余地もなく、用意された案に全員がうなずくだけです。このような会議に違和感を持つのは自然なことでしょう。
一方で、欧米流とされる、会議の場で率直に意見をぶつけ合うスタイルが、いつでも優れているとは限りません。
会議の本当の目的は、オープンに話したという形式を整えることでも、波風を立てずに承認を得ることでもありません。必要な情報と異論を集め、納得できる意思決定を行い、決定後に組織を動かすことです。
最初に結論――「根回しか、オープンな議論か」という二者択一ではない
私の結論は、どちらか一方を正解とするべきではない、ということです。
両者の違いは、突き詰めれば、「会議前に議論するのか、会議中に議論するのか」という点にあります。
少人数で、参加者が論点を十分に理解し、心理的にも率直に話せるのであれば、会議の場でオープンに議論する方法が機能します。一方、参加人数が多く、立場や知識量に差があり、利害関係も複雑であれば、会議前の説明や意見聴取が欠かせません。
問題なのは根回しそのものではありません。反対意見を封じたり、意思決定の経緯を不透明にしたりするために根回しが使われることです。
反対に、オープンな会議も、準備不足のまま全員を集め、声の大きい人だけが話す場になれば、建設的な議論とはいえません。
欧米流の「オープンな議論」の良いところ
1.異論や新しい視点が表に出やすい
会議中に質問や反対意見を歓迎すれば、提案者が見落としていた問題が見つかります。立場の異なる人の意見によって、当初案が修正され、より良い案になることもあります。
特に、新規事業、商品開発、組織改革など、最初から正解が決まっていない課題では、多様な意見を表に出すことに大きな意味があります。
2.意思決定の過程が見えやすい
誰が何を懸念し、どのような理由で最終案が選ばれたのかを参加者が共有できます。結論に全面的に賛成できなくても、「何を比較し、なぜこの判断になったのか」が分かれば、決定を受け入れやすくなります。
3.役職にかかわらず意見を出せる可能性がある
上司の案であっても、部下や専門担当者がその場で疑問を示せる文化があれば、組織の思い込みを修正できます。経営者にとって耳の痛い意見ほど、早い段階で聞く価値があります。
オープンな議論にも弱点がある
1.発言力の強さと意見の正しさが混同される
「誰でも自由に発言できる会議」と「全員の意見が公平に扱われる会議」は同じではありません。
話すことが得意な人、役職が高い人、反論に慣れている人が議論を支配し、慎重に考える人や少数派の意見が埋もれることがあります。表面上はオープンでも、実態は声の大きさで結論が決まる会議になりかねません。
2.対立が目的化することがある
率直さは大切ですが、相手を言い負かすことが目的になると、議論の質は下がります。人前で否定されたという感情が残れば、決定後の協力が得られにくくなることもあります。
3.人数が増えるほど時間がかかる
参加者全員がその場で事情を理解し、質問し、意見を述べれば、当然ながら時間が必要です。論点の理解度に差がある会議では、前提説明だけで時間を使い切ってしまう場合もあります。
4.準備不足を「自由な議論」で補おうとしやすい
資料も論点整理もないまま、「まずは自由に意見を出しましょう」と始める会議があります。しかし、情報が不足していれば、出てくるのは思いつきや印象論になりがちです。
オープンな議論が有効なのは、準備が不要だからではありません。むしろ、参加者が必要な情報を事前に共有しているからこそ、会議では本質的な論点に時間を使えます。
日本的な「根回し」の良いところ
1.関係者ごとの事情を丁寧に把握できる
会議の場では言いにくい事情があります。担当部署の負担、取引先との関係、過去の経緯、上司と部下の関係などです。個別に話を聞くことで、表の資料だけでは分からない実務上の問題を把握できます。
2.少数意見を拾えることがある
大人数の会議では発言しにくい人でも、事前の個別説明や少人数の打合せであれば、本音を話せることがあります。
根回しは、賛成を取り付けるためだけのものではありません。本来は、異論や懸念を早めに集め、提案を修正するための情報収集でもあります。
3.決定後の実行が速い
関係者が事前に内容を理解し、実務上の問題も調整されていれば、正式決定後すぐに動けます。会議時間だけを見れば儀式的に見えても、その前段階で十分な議論が行われているなら、組織全体としては効率的な場合があります。
4.公の場での無用な対立を避けられる
人前で立場を否定されると、内容よりも感情や面子の問題が前面に出ることがあります。事前に懸念を聞き、修正可能な点を調整しておくことは、決して不健全とは限りません。
根回しが「悪い会議」を生むとき
1.会議が承認の儀式になる
結論が完全に決まり、質問も修正も許されないのであれば、会議を開く意味は薄れます。「正式な手続きを踏んだ」という体裁を整えるだけになってしまいます。
2.誰が決めたのか分からなくなる
非公式なやり取りだけで方向が決まると、判断の根拠や責任の所在が曖昧になります。参加者も、「どこで決まったのか分からないが、反対できる状況ではない」と感じるようになります。
3.根本的な反対意見が出にくくなる
根回しが「賛成してもらうための説得」に偏ると、提案そのものを取りやめるべきだという意見が排除されます。細部は修正されても、大きな判断の誤りを止められない危険があります。
4.根回しの輪から外れた人が疎外される
一部の人だけで情報を共有し、実質的な決定を行えば、他の参加者は当事者意識を失います。決定後に初めて内容を知った現場から、反発や実行上の問題が出ることもあります。
5.調整に時間がかかりすぎる
全員の同意を得ようとして個別調整を重ねると、決定が遅れます。環境変化の速い事業では、反対者が一人もいなくなるまで待つことが、かえって大きなリスクになります。
人数と理解度によって、適切な会議スタイルは変わる
会議の設計で特に重要なのは、参加人数と、参加者の論点に対する理解度です。
| 参加者の状況 | 適した進め方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 少人数・理解度が高い | 会議中のオープンな討議を中心にする | 結論を急がず、反対意見を明示的に求める |
| 少人数・理解度に差がある | 事前資料を共有し、必要な人には個別説明を行う | 知識差を発言力の差にしない |
| 大人数・理解度が高い | 論点を絞り、事前意見を収集したうえで会議する | 全員が同じ内容を繰り返さないよう進行する |
| 大人数・理解度に差がある | 説明会、少人数協議、代表者会議、正式決定を分ける | 一度の会議ですべてを済ませようとしない |
少人数で理解度が高い会議では、その場で率直に議論することができます。参加者が互いの専門性や前提を理解しているため、説明に時間をかけず、論点そのものを深掘りできるからです。
反対に、大人数で理解度に差がある場合、会議当日に初めて資料を配り、全員に自由な発言を求めても、建設的な議論にはなりにくいでしょう。
その場合は、情報共有、意見収集、論点整理、意思決定を分ける必要があります。事前資料や個別説明を用いることは、日本的な悪習ではなく、会議を成立させるための準備です。
実務で使いやすいのは「準備は日本型、議論はオープン型」
中小企業や各種団体の会議では、二つの方法を組み合わせるのが現実的です。
- 会議前に目的と論点を示す
何を報告し、何について意見を求め、何を決める会議なのかを明確にします。 - 必要な資料を事前に共有する
参加者が同じ情報を持った状態で会議に臨めるようにします。 - 関係者から事前に懸念を聞く
賛成を取り付けるためではなく、見落としを発見し、論点を整理するために行います。 - 会議では未決定事項を明示する
すでに決めた事項と、会議で変更できる事項を区別します。 - 反対意見を会議の場でも認める
事前調整をしていても、新しい事実や重要な異論が出た場合は、案を修正または持ち帰れるようにします。 - 最後に決定内容と責任者を確認する
誰が、何を、いつまでに行うのかを明確にします。
この進め方なら、根回しの長所である情報収集と実行力を生かしながら、密室性や儀式化を抑えることができます。同時に、オープンな議論の長所を残しつつ、準備不足や発言力の偏りも軽減できます。
会議前に確認したいチェックポイント
- この会議は、報告、意見交換、調整、決定のどれを目的としているか
- 会議で本当に変更できる範囲はどこか
- 参加者は、判断に必要な情報を事前に受け取っているか
- 参加者の理解度に大きな差はないか
- 人数が多すぎて、実質的な議論ができなくなっていないか
- 発言しにくい人の意見を拾う方法があるか
- 反対意見を述べても不利益を受けない雰囲気があるか
- 事前調整で結論を固めすぎていないか
- 決定後の担当者、期限、記録方法が明確か
税理士として、組織運営に関わる立場から考えること
税理士の仕事では、経営者、経理担当者、金融機関、株主、後継者など、理解度も利害も異なる人々の間で話を進める場面があります。
例えば、事業承継や組織再編のような重要な判断を、大人数の会議で初めて説明し、その場で自由に議論して決めることは現実的ではありません。関係者ごとの立場や税務上の影響を事前に確認し、論点を整理する必要があります。
しかし、事前調整をしたからといって、正式な会議を形式だけのものにしてよいわけでもありません。新たな懸念が示されたときに立ち止まれること、意思決定の理由を記録すること、最終的な責任者を明確にすることが大切です。
良い会議とは、議論が激しい会議でも、全員が一度で賛成する会議でもありません。必要な異論が表に出て、決めるべきことが決まり、決定後に組織が動ける会議です。
まとめ――根回しをなくすのではなく、役割を変える
電車の中で耳にした二人の会話には、もっともな部分がありました。結論が決まった後に全員がうなずくだけなら、会議が形骸化しているという批判は避けられません。
ただし、問題を「日本的な根回しは悪く、オープンな議論は良い」と整理してしまうと、本質を見失います。
根回しは、賛成を強要する作業ではなく、会議前に情報と異論を集める準備に変える。会議は、準備された結論を演じる場ではなく、残された重要論点を確認し、必要なら修正し、責任をもって決定する場にする。
そして、参加人数と理解度に合わせて、事前説明、少人数協議、全体会議を組み合わせる。この設計ができれば、日本型と欧米型の長所をともに生かすことができます。
会議が長い、意見が出ない、決めても動かない――そのような状態が続いているなら、参加者の姿勢だけではなく、会議前の準備と会議の役割分担そのものを見直してみてはいかがでしょうか。
東京・品川区の税理士 藁総合会計事務所
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