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夏休みは、普段よりも親子で過ごす時間が増える季節です。

経営者の方にとっては、子どもに仕事の話をしたり、会社を見せたりする機会にもなるでしょう。そんなとき、一度考えてみたいのが、「子どもに何を残すのか」という問題です。

会社の株式、不動産、預金を残すことは大切です。しかし、本当に必要なのは、財産の額だけではありません。会社がどのように利益を生み、誰の仕事によって支えられ、税金や借入金を含むお金がどのように動いているのか。その理解がないまま財産だけを受け取ると、子どもにとって相続が重荷になることもあります。

今回は夏休み特別企画として、「会社を残すこと」「お金を教えること」「相続を準備すること」を一つの流れとして考えます。

子どもに残すのは、会社そのものだけではない

経営者が子どもに残せるものは、大きく分けると次の三つです。

  • 株式、預金、不動産などの「財産」
  • 仕事の考え方、数字の見方、判断の仕方といった「知恵」
  • 従業員、取引先、金融機関、地域との「信頼関係」

相続税の計算では、財産の金額が中心になります。しかし、事業承継の成否を左右するのは、むしろ知恵と信頼関係です。

たとえば、自社株を子どもに渡すだけでは、会社を経営できるようにはなりません。決算書の読み方、資金繰り、借入金の意味、従業員の生活を預かる責任、取引先との約束などを、時間をかけて伝える必要があります。

中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、後継者の選定や育成、知的資産の承継には一定の準備期間が必要であり、早期に着手する重要性が示されています。事業承継は、相続が起きてから始めるものではありません。

「会社を継がせたい」と「子どもが継ぎたい」は別の話

親が会社を残したいと思っていても、子どもが経営者になりたいとは限りません。能力の問題でも、親孝行の問題でもありません。本人の人生と、会社の将来を分けて考える必要があります。

まず、次の三つを混同しないことが大切です。

  • 会社で働くこと
  • 会社を経営すること
  • 会社の株式を持つこと

子どもが会社で働いても、経営者として適任とは限りません。反対に、経営を役員や従業員に任せ、子どもが株主として関わる形もあります。ただし、経営する人と株式を持つ人が分かれると、意思決定や配当を巡る対立が生じる可能性があります。

また、子どもが複数いる場合に「平等に」と自社株を均等に分けると、議決権が分散し、将来の経営判断が難しくなることがあります。相続財産の金額を公平にすることと、会社の支配権を均等に分けることは同じではありません。

夏休みにできる「お金の教育」

子どもへのお金の教育というと、お小遣い帳や貯金を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それも大切です。しかし、経営者家庭だからこそ伝えられる、もう一歩進んだ学びがあります。

1.売上と利益は違うことを教える

100万円売れても、仕入れ、人件費、家賃などを支払えば、100万円が手元に残るわけではありません。「たくさん売れた会社が、必ずしもお金のある会社ではない」という感覚は、経営にも生活にも役立ちます。

2.利益と現金も違うことを教える

決算書で利益が出ていても、売掛金の回収前であったり、借入金を返済したりすれば、預金が少ないことがあります。利益、税金、返済、手元資金の関係を簡単な数字で見せると、会社のお金が現実のものとして伝わります。

3.税金は社会との関係であることを教える

税金を単に「取られるお金」と説明するのではなく、利益が出たときに社会へ負担するものとして伝えることも重要です。同時に、納税資金を事前に残しておくことが、経営者の責任であることも話せます。

4.小さな判断を任せる

家族で使う予算の一部を渡し、何に使うかを考えてもらう方法もあります。使う、残す、誰かのために使う。この三つを自分で選ばせることが、お金の価値を考える練習になります。

5.親の会社が誰の役に立っているかを伝える

会社の価値は、預金残高や株価だけではありません。「お客様のどんな困りごとを解決しているのか」「従業員とその家族の生活にどう関わっているのか」を話すことで、子どもは会社を単なる親の財産ではなく、社会の中にある存在として理解できます。

相続は「財産の一覧」を作るところから始める

相続対策というと、すぐに生前贈与や節税を考えがちです。しかし、最初に行うべきことは、財産と負債の全体像を把握することです。

  • 自社株式と会社への貸付金
  • 預貯金、有価証券、生命保険
  • 自宅、賃貸不動産、会社で使っている個人所有の不動産
  • 借入金、保証債務などの負担
  • 誰に何を引き継いでほしいかという希望

特に自社株は、換金しにくい一方で、業績や会社の資産状況によって評価額が高くなることがあります。相続税を納める財源があるか、後継者に株式を集中できるか、他の相続人とのバランスをどう取るかを事前に検討しておく必要があります。

相続税の基礎控除額は、原則として「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。ただし、基礎控除以内かどうかだけで相続対策の必要性は決まりません。自社株の支配権、共有不動産、遺産分割、会社への貸付金など、税額が出なくても整理すべき問題はあります。

生前贈与は「毎年110万円なら安心」ではない

暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いて贈与税を計算します。しかし、「毎年110万円以下で贈与すれば、すべて相続税と無関係になる」という理解は正確ではありません。

令和6年1月1日以後の暦年贈与については、相続税の課税価格に加算される期間が、従来の相続開始前3年以内から段階的に7年以内へ延長されています。令和13年1月1日以後に開始する相続では、原則として相続開始前7年以内の一定の贈与が対象になります。

また、相続時精算課税には年110万円の基礎控除が設けられていますが、一度選択すると、その贈与者について暦年課税へ戻れないなどの注意点があります。どちらが有利かは、財産の種類、将来の値上がり、贈与者の年齢、相続人の構成などによって異なります。

なお、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税非課税制度は、令和8年3月31日で終了し、同年4月1日以後の新たな適用はできません。古い記事や過去の事例だけを見て判断しないよう注意が必要です。

よくある失敗例

  • 子どもの意思を確認せず、親族内承継を前提に計画を進める
  • 公平にしようとして自社株を複数の子どもへ均等に分ける
  • 株式の評価額だけを下げようとして、経営上不自然な取引を行う
  • 贈与契約書、資金移動、子どもによる財産管理が曖昧なまま贈与したことにする
  • 相続税の節税を優先し、親の老後資金や会社の運転資金を減らしすぎる
  • 遺言書を作っただけで、納税資金や後継者育成まで準備できたと思う

相続対策は、財産を早く渡せばよいという話ではありません。親の生活、会社の資金繰り、後継者の能力、他の相続人の納得を同時に考える必要があります。

この夏、経営者が家族と話しておきたい五つのこと

  • この会社は、誰のどんな役に立っているのか
  • 子どもは会社を継ぎたいのか、関わりたいのか
  • 株式、経営権、個人財産を誰にどう引き継ぐのか
  • 会社や家族が抱えている借入金・保証・維持費には何があるか
  • 親が元気なうちに、誰と何を相談しておくのか

一度の話し合いで結論を出す必要はありません。むしろ、「継ぐか、継がないか」を迫るのではなく、まず会社のことを知ってもらい、本人の考えを聞くところから始めるべきです。

まとめ―最も大切な相続対策は、対話を始めること

子どもに会社や財産を残すことは、単なる名義変更ではありません。

財産を受け取る力、会社の数字を理解する力、人や信用を大切にする姿勢まで伝えてこそ、次の世代に意味のあるものを残せます。一方で、子どもが会社を継がないという選択も尊重し、その場合には従業員承継や第三者承継を含めて会社の将来を考える必要があります。

夏休みの一日、会社の歴史や仕事の意味を親子で話してみてはいかがでしょうか。その会話が、お金の教育であり、事業承継の第一歩であり、家族の相続を考える入口になります。

藁総合会計事務所では、中小企業の自社株評価、事業承継、相続税、生前贈与、遺産分割、納税資金の検討を支援しています。会社と家族の両方を守るためには、税金だけでなく、経営権、資金繰り、ご家族の意向を一体として整理することが重要です。判断に迷う場合は、早めにご相談ください。

参考資料