相続した財産が災害で被害を受けた場合の相続税|申告期限前後で異なる減免制度
相続によって取得した建物や家財、事業用設備などが、地震、台風、洪水、火災などの災害によって損害を受けることがあります。
相続税は、原則として相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点の財産価額を基礎として計算します。
しかし、相続税の申告や納税が終わる前に相続財産が大きな被害を受けたにもかかわらず、被害前の財産価額のまま課税することには、納税者にとって大きな負担が生じます。
そこで、一定の要件を満たす場合には、災害減免法により、相続財産の価額から被害額を控除したり、災害後に納付する相続税の一部を免除したりする制度が設けられています。
実務上、特に重要なのは、災害が発生した時期が、相続税の法定申告期限より前か後かという点です。
相続財産の災害減免制度とは
相続または遺贈によって取得した財産が災害によって被害を受けた場合、一定の被害割合を満たせば、相続税の減免を受けられる可能性があります。
対象となる主な災害には、次のようなものがあります。
- 地震
- 台風
- 豪雨や洪水
- 土砂災害
- 津波
- 火災
- その他これらに類する災害
ただし、財産が少し破損しただけで、直ちに相続税が減額されるわけではありません。法律上、一定以上の被害割合が必要です。
災害減免を受けるための被害割合
相続税の災害減免は、原則として、次のいずれかの要件を満たす場合に適用されます。
- 相続税の課税価格の計算の基礎となった財産の債務控除後の価額のうち、被害を受けた部分の価額が10分の1以上であること
- 相続税の課税価格の計算の基礎となった「動産等」の価額のうち、被害を受けた部分の価額が10分の1以上であること
ここでいう被害額は、災害による損害額をそのまま使うのではありません。
火災保険金、地震保険金、損害賠償金などによって補てんされる金額がある場合には、その補てん額を差し引いた後の金額で判定します。
国税庁は、相続財産全体に対する被害割合または一定の動産等に対する被害割合が10分の1以上であることを、災害減免の適用要件として示しています。
「動産等」に含まれる財産
災害減免の被害割合を判定する際の「動産等」には、一般に次のような財産が含まれます。
- 建物
- 家財
- 自動車
- 事業用の機械や設備
- 商品や製品
- 立木
一方で、次の財産は、この判定における「動産等」には含まれません。
- 現金や預貯金
- 株式などの有価証券
- 土地
- 借地権など、土地の上に存する権利
ただし、土地が対象外だからといって、土地の被害がすべて無関係になるとは限りません。財産全体に対する被害割合の判定や、特定の大規模災害に関する特例が問題となることがあります。
相続税の申告期限前に災害が起きた場合
相続税の申告期限は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
この法定申告期限より前に相続財産が災害による被害を受け、所定の被害割合を満たした場合には、保険金などで補てんされない被害部分の価額を、相続財産の価額から控除して相続税を計算します。
つまり、相続開始時点では建物に一定の価値があったとしても、相続税の申告期限前に建物が全壊または大きく損壊した場合には、その被害を反映した課税価格で申告できる可能性があります。
申告期限前に被害を受けた場合の計算例
例えば、相続した財産が次のような内容だったとします。
- 土地:5,000万円
- 建物:2,000万円
- 預貯金:3,000万円
- 相続財産の合計:1億円
その後、相続税の申告期限前に火災が発生し、建物に1,500万円相当の損害が生じたとします。
火災保険金として500万円を受け取る場合、補てん後の被害額は、次のようになります。
1,500万円-500万円=1,000万円
仮に債務控除などを考慮しない単純な例では、財産全体に対する被害割合は、次のとおりです。
1,000万円÷1億円=10%
10分の1以上という要件を満たすため、課税価格の計算上、相続財産の価額から1,000万円を控除できる可能性があります。
この場合、相続税の計算対象となる財産価額は、概算で次のようになります。
1億円-1,000万円=9,000万円
実際の相続税額は、債務控除、葬式費用、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、各相続人の取得財産などを踏まえて計算します。
申告期限後に災害が起きた場合
相続税の申告期限後に災害が起きた場合は、申告期限前の場合とは取扱いが異なります。
この場合、相続開始時の財産評価額を遡って減額するのではなく、災害発生日以後に納付すべき相続税のうち、被害を受けた財産に対応する部分の税額が免除される仕組みです。
例えば、次のような相続税が残っている場合には、減免の対象となる可能性があります。
- 延納中で、災害後に分納期限が到来する相続税
- 延納や物納の許可前で、徴収が猶予されている相続税
- 農地や非上場株式などについて納税猶予を受けている相続税
一方、災害発生前にすでに相続税を全額納付している場合には、原則として、災害減免法によって納付済みの相続税が返還されるわけではありません。
申告期限前と申告期限後の違い
| 災害が発生した時期 | 相続税の取扱い |
|---|---|
| 相続税の法定申告期限前 | 保険金等で補てんされない被害部分を財産価額から控除して課税価格を計算 |
| 相続税の法定申告期限後 | 災害発生日以後に納付すべき相続税のうち、被害財産に対応する税額を免除 |
| 申告・納付がすべて完了した後 | 原則として、納付済み相続税の還付対象にはならない |
同じ建物が同じ程度の被害を受けたとしても、災害が発生した日によって減免方法が大きく変わります。
災害減免を受けるための手続き
申告期限前に災害が発生した場合には、相続税申告書とともに、災害減免に関する計算明細書などを提出します。
申告期限後の税額免除を受ける場合には、原則として、災害がやんだ日から2か月以内に免除承認申請書を提出する必要があります。
被災後は、住宅や事業の復旧が最優先になり、税務手続きまで手が回らないことも少なくありません。
しかし、申請期限のある制度については、期限を過ぎると適用を受けることが難しくなる可能性があります。被災後、できるだけ早い段階で税務署または税理士に確認することが重要です。
被害額を証明するために保存したい資料
災害減免を受けるためには、どの財産が、どの程度の被害を受けたのかを説明できる資料が必要です。
次の資料は、できる限り早く確保しておきましょう。
- 罹災証明書や被災証明書
- 被害を受けた直後の写真や動画
- 被害を受ける前の写真や図面
- 修繕工事の見積書
- 解体費用や撤去費用の請求書
- 保険会社へ提出した事故報告書
- 保険金の支払通知書
- 建物や設備の取得価額が分かる資料
- 固定資産税評価証明書
- 相続税申告に使用した財産評価資料
罹災証明書は重要な資料ですが、罹災証明書があるだけで相続税から一定額が自動的に控除されるわけではありません。
相続税評価額を基礎として、被害を受けた部分の価額や、保険金で補てんされなかった金額を合理的に計算する必要があります。
よくある失敗例
保険金を差し引かずに被害額を計算している
災害減免の判定に使うのは、保険金や損害賠償金などを差し引いた後の実質的な被害額です。
建物の損害額が大きくても、保険金による補てんが多ければ、10分の1以上という要件を満たさないことがあります。
修繕費をそのまま被害額としている
修繕費と、相続税評価上の被害部分の価額は、必ずしも一致しません。
修繕工事に高額な費用がかかったからといって、その全額を相続財産から控除できるとは限りません。
災害発生日と申告期限の関係を確認していない
災害が申告期限の前か後かによって、財産価額を減額するのか、未納税額を免除するのかが変わります。
まず、被相続人の死亡日、相続税の申告期限、災害発生日を時系列で整理することが必要です。
申告期限後の申請を後回しにする
申告期限後の免除申請には、原則として、災害がやんだ日から2か月以内という期限があります。
保険金額がまだ確定していない場合でも、手続きを放置せず、早めに所轄税務署や税理士へ相談することが大切です。
災害減免と申告期限の延長を同じ制度だと考える
災害による相続税の減免と、災害によって申告や納付ができない場合の期限延長は、別の制度です。
災害などのやむを得ない理由で期限までに申告や納付ができない場合には、一定の要件のもとで期限の延長が認められることがあります。
財産の損害について減免を受ける手続きと、申告期限そのものを延長する手続きは、それぞれ確認する必要があります。
土地が災害で被害を受けた場合
土地は、災害減免法における「動産等」には含まれません。
そのため、建物や家財の場合と同じ考え方を、そのまま土地に当てはめることはできません。
ただし、地割れ、崩落、陥没、土砂流入などによって土地そのものに物理的な損傷が生じた場合や、特定非常災害に関する特例が設けられた場合には、別途検討が必要です。
単なる周辺地価の下落なのか、土地自体が物理的に損傷したのかによっても判断が異なります。
相続税以外の税金も確認する
災害により相続財産が被害を受けた場合には、相続税だけでなく、次の税務上の取扱いも確認する必要があります。
- 所得税の雑損控除
- 所得税の災害減免
- 事業用資産の損失処理
- 消費税の取扱い
- 固定資産税の減免
- 受け取った保険金の課税関係
相続した住宅や家財が被害を受けた場合には、相続人本人の所得税について雑損控除の対象となる可能性があります。
ただし、事業用資産、生活に通常必要でない資産、保険金によって補てんされた部分などは、それぞれ取扱いが異なります。
相続財産が被災したときの確認事項
- 被相続人の死亡日
- 相続税の法定申告期限
- 災害が発生した日
- 被害を受けた財産を取得した相続人
- 被害を受ける前の相続税評価額
- 被害を受けた部分の価額
- 受け取る保険金や損害賠償金
- 相続税が申告・納付済みかどうか
- 延納や納税猶予中の相続税があるか
- 申請書の提出期限
まとめ
相続によって取得した財産が災害で被害を受けた場合には、一定の要件を満たすことで、災害減免法による相続税の軽減または免除を受けられる可能性があります。
特に重要なのは、災害が相続税の法定申告期限前に起きたか、申告期限後に起きたかという点です。
- 申告期限前であれば、保険金等で補てんされない被害部分を財産価額から控除する
- 申告期限後であれば、災害後に納付すべき相続税のうち、被害財産に対応する税額を免除する
- すでに全額納付済みの場合には、原則として納付済み税額の還付対象にはならない
被害額の計算では、相続税評価額、被害の程度、保険金による補てん額などを整理しなければなりません。
また、申告期限後の免除申請には短い提出期限があるため、被災後は証拠資料を確保し、早めに専門家へ相談することが重要です。
相続財産の災害被害については藁総合会計事務所へご相談ください
藁総合会計事務所では、相続税申告、不動産評価、災害による財産被害の税務処理、所得税の雑損控除などに関するご相談を承っています。
相続財産が災害による被害を受けた場合には、災害発生日、申告期限、保険金の状況などによって、適用できる制度が異なります。
東京都品川区を中心に、相続税や不動産に関する税務判断を支援しています。判断に迷う場合には、できるだけ早い段階で藁総合会計事務所へご相談ください。
参考資料
- 国税庁「No.8006 災害により被害を受けたときの相続税の取扱い」
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 国税庁「No.8001 災害等による期限の延長」
- 国税庁「災害による申告、納付等の期限延長申請」