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死亡後に支給する給与・死亡退職金に源泉所得税は必要か

役員や従業員が亡くなった後に、会社から給与や退職金を支給する場面があります。

たとえば、6月10日に役員が亡くなり、会社の給与支給日が毎月25日である場合、6月25日に支給する役員報酬について、通常どおり源泉所得税を差し引くべきか迷うことがあります。

また、死亡退職金を遺族に支給する場合にも、「退職金だから源泉徴収が必要なのではないか」と考えてしまうことがあります。

しかし、死亡後に支給期が到来する給与や、一定の死亡退職金については、所得税ではなく相続税の対象として整理されます。そのため、源泉所得税の徴収が不要となる場合があります。

死亡後に支給期が到来する給与は、所得税ではなく相続税の対象

死亡した役員や従業員に係る給与で、その死亡後に支給期が到来するものは、所得税の給与所得ではなく、本来の相続財産として相続税の課税対象になります。

そのため、会社がその給与を遺族に支払う場合であっても、給与所得としての源泉所得税は徴収しません。

また、その金額は、亡くなった方の「給与所得の源泉徴収票」の「支払金額」欄にも含めません。

一方で、死亡時までにすでに支給期が到来していた給与については、死亡後に実際の支払をしたとしても、亡くなった方の給与所得として取り扱われます。この場合は、給与所得の源泉徴収票の支払金額に含める必要があります。

ポイントは「支払日」ではなく「支給期」

実務上、最も注意すべき点は、「実際に支払った日」だけで判断しないことです。

給与規程や役員報酬の支給条件などで、毎月の給与支給日が定められている場合、その支給期が死亡前か死亡後かによって取扱いが変わります。

  • 死亡前に支給期が到来している給与:亡くなった方の給与所得
  • 死亡後に支給期が到来する給与:相続財産として相続税の対象

たとえば、給与支給日が毎月25日で、6月10日に死亡した場合、6月25日に支給期が到来する給与は、死亡後に支給期が到来する給与となります。この場合、所得税の源泉徴収は不要です。

一方、給与支給日が6月5日で、資金繰りなどの都合により実際の支払が6月15日になった場合には、支給期は死亡前に到来しています。この場合は、死亡後に支払ったとしても、給与所得として扱われる点に注意が必要です。

死亡退職金も、通常の退職金とは取扱いが異なる

通常の退職金を本人に支給する場合には、退職所得として所得税・復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。

しかし、死亡により退職した者に係る退職手当等で、死亡後に支給期が到来し、相続税の課税価格計算の基礎に算入されるものについては、所得税は課税されません。

そのため、このような死亡退職金を遺族に支給する場合には、退職所得としての源泉所得税は徴収しません。

また、提出する書類も「退職所得の源泉徴収票」ではなく、「退職手当等受給者別支払調書」となる点に注意が必要です。

死亡退職金は相続税の対象になる

死亡退職金は、所得税がかからないからといって、税金の対象外になるわけではありません。

被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与を受け取る場合で、死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。

ただし、相続人が取得した死亡退職金については、一定の非課税枠があります。

非課税限度額は、次の算式で計算します。

500万円 × 法定相続人の数

この非課税枠は、死亡退職金を受け取った人が相続人である場合に適用されます。相続人以外の人が受け取った死亡退職金には、原則としてこの非課税枠は適用されません。

実務上の注意点

死亡後の給与や死亡退職金を処理する場合、会社側では次の点を確認する必要があります。

  • 給与規程や役員報酬の支給日を確認する
  • 死亡日と給与の支給期の前後関係を確認する
  • 死亡前に支給期が到来していた給与か、死亡後に支給期が到来する給与かを区分する
  • 死亡後に支給期が到来する給与については、源泉徴収票の支払金額に含めない
  • 死亡退職金については、所得税の源泉徴収ではなく、相続税の対象として整理する
  • 死亡退職金について、退職手当等受給者別支払調書の提出が必要か確認する
  • 遺族側で相続税申告が必要になる可能性を説明する

よくある失敗例

死亡後の給与・退職金処理では、次のような誤りが起こりやすくなります。

  • 死亡後に支給期が到来する給与から、通常どおり源泉所得税を差し引いてしまう
  • 死亡後に支給する給与を、亡くなった方の給与所得の源泉徴収票に含めてしまう
  • 死亡退職金を通常の退職金と同じように源泉徴収してしまう
  • 死亡退職金について、相続税の対象であることを遺族に伝えていない
  • 死亡退職金の支給決議日や支給確定日を整理していない
  • 役員死亡の場合に、会社法上の手続、株主総会・取締役会議事録、退職慰労金規程との整合性を確認していない

役員死亡の場合は、給与と退職慰労金を分けて考える

役員報酬は、従業員給与とは異なり、雇用契約ではなく委任関係に基づく報酬です。

そのため、役員が死亡した場合には、死亡日以後も当然に役員報酬が発生し続けるわけではありません。役員としての地位は死亡により終了します。

もっとも、会社の報酬規程や定時支給の実態により、死亡月の役員報酬をどのように扱うかは、会社の内部規程、株主総会決議、取締役会決議、過去の運用などを踏まえて整理する必要があります。

この場合も、税務上は「支給期が死亡前か死亡後か」を確認し、給与所得として扱う部分と、相続財産として扱う部分を区分することが重要です。

経営者・実務担当者が確認すべきポイント

会社としては、死亡後の支給を単なる給与計算の延長で処理しないことが大切です。

  • 死亡日
  • 給与規程上の支給日
  • 役員報酬の支給決定内容
  • 死亡退職金・弔慰金・功労金の支給根拠
  • 株主総会または取締役会の決議内容
  • 源泉徴収票に含める金額
  • 退職手当等受給者別支払調書の提出要否
  • 相続税申告への影響

特に中小企業では、創業者や代表者が亡くなった場合に、給与、役員退職慰労金、弔慰金、貸付金、未払金、生命保険金などが同時に発生することがあります。

それぞれ所得税、法人税、相続税で取扱いが異なるため、早い段階で全体像を整理することが重要です。

まとめ

死亡後に支給する給与や死亡退職金については、通常の給与計算や退職金計算とは異なる取扱いになります。

死亡後に支給期が到来する給与は、所得税の給与所得ではなく、相続財産として相続税の対象になります。そのため、源泉所得税の徴収は不要です。

また、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金についても、所得税ではなく相続税の対象となり、退職所得としての源泉徴収は行いません。

一方で、死亡前に支給期が到来していた給与は、死亡後に支払ったとしても、亡くなった方の給与所得として整理する必要があります。

判断のポイントは、「死亡日」「支給期」「支給確定日」「支給根拠」を分けて確認することです。

藁総合会計事務所へのご相談

藁総合会計事務所では、中小企業の税務、役員報酬、役員退職慰労金、相続税、事業承継、決算対応に関するご相談を承っています。

役員や従業員が亡くなった場合の給与・退職金処理は、所得税だけでなく、法人税・相続税・会社法上の手続も関係します。

判断に迷う場合には、早めに専門家へご相談ください。

参考資料

  • 国税庁「死亡後に支給期が到来する給与」
  • 国税庁「死亡により退職した者の給与に係る源泉徴収票の交付」
  • 国税庁「死亡による退職の場合」
  • 国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」
  • 国税庁「退職金と税」