台湾へ3年程度帰国する医師が、日本で不動産投資・株式投資を行う場合の税務上の注意点
現在日本に住んでいる台湾人の医師が、台湾で医療行為を行うために3年程度台湾へ戻る予定がある。その間、台湾で得た収入を使って、日本の不動産投資や株式投資を行いたい。また、日本に法人を設立することも検討している。
このようなご相談では、「日本で投資できるか」だけを考えるのでは不十分です。最初に整理すべきなのは、日本と台湾の双方で、その方が税務上どこの居住者として扱われるかです。
特に、3年程度台湾に生活拠点を移す場合、日本では所得税法上の非居住者となる可能性が高くなります。一方で、台湾では滞在日数や勤務実態により、台湾の居住者として申告が必要になる可能性があります。
この記事では、台湾へ一定期間戻る医師が、日本で不動産投資・株式投資を行う場合の注意点を、個人投資と日本法人を使う場合に分けて整理します。
まず確認すべき全体像
このケースで重要なのは、次の5点です。
- 日本の税務上、居住者か非居住者か
- 台湾で得る医師収入が、どこで課税されるか
- 日本国内不動産から生じる賃料・売却益の課税関係
- 日本株式投資における証券口座、配当、譲渡益の扱い
- 日本法人を作ることが本当に有利か
結論からいえば、台湾で稼いだお金を日本の不動産や株式に投資すること自体は可能です。しかし、税務上は「台湾で稼いだお金だから日本では関係ない」とはなりません。
日本国内にある不動産から生じる所得、日本法人から受ける配当、日本国内不動産の売却益などは、日本の国内源泉所得として日本で課税関係が残るためです。
日本の居住者・非居住者判定
日本の所得税では、国内に住所がある人、または引き続き1年以上居所がある人を「居住者」として扱います。ここでいう住所は、単なる住民票の有無だけでなく、生活の本拠がどこにあるかで判断されます。
3年程度台湾に戻り、台湾で医師として勤務し、生活の中心を台湾に移す場合、日本では出国時から非居住者として扱われる可能性が高いと考えられます。
非居住者になると、日本で課税される所得は、原則として日本国内源泉所得に限られます。したがって、台湾で医師として得る給与や事業所得は、通常、日本では課税対象外となる方向で整理します。
一方で、日本に自宅、家族、投資資産、法人、銀行口座、証券口座などが残る場合には、生活の本拠が本当に台湾に移ったといえるかを丁寧に確認する必要があります。
妻の居住者判定も別に確認する
このケースでは、妻が日本人で、一緒に台湾へ行く予定です。妻についても、本人とは別に居住者・非居住者判定を行う必要があります。
特に、妻名義の日本資産、日本の証券口座、不動産、勤務関係、住民票、健康保険、年金、扶養関係などは、本人とは別に整理します。
夫婦で同じ時期に台湾へ行くとしても、税務上の判定はそれぞれの生活実態により判断されます。
台湾側での課税関係
台湾では、外国人であっても台湾源泉所得がある場合には、台湾で所得税の対象となります。
一般的には、台湾の1課税年度である1月1日から12月31日までの滞在日数により、非居住者か居住者かが判断されます。台湾に183日以上滞在する外国人は、台湾の居住者として扱われ、台湾での所得税申告が必要になる可能性があります。
今回のように、台湾で医療行為を行うために3年程度滞在する場合、台湾側では居住者として申告が必要になる可能性が高いと考えられます。
また、日本と台湾の間には、通常の国家間租税条約ではなく、日台民間租税取決めと国内法上の相互免除制度により、一定の所得について租税条約に近い取扱いが用意されています。
ただし、台湾での医師収入、日本の不動産所得、日本株式の配当、日本法人からの役員報酬や配当などは、それぞれ所得区分ごとに扱いが異なります。日本側だけでなく、台湾側の税理士・会計士にも確認する必要があります。
日本の不動産投資を個人名義で行う場合
本人が日本の非居住者となった後でも、日本国内にある不動産から生じる賃料収入は、日本の国内源泉所得に該当します。
そのため、日本国内で不動産を賃貸する場合には、非居住者であっても日本で確定申告が必要になる場合があります。
また、非居住者が日本国内不動産の賃料を受け取る場合、借主側で源泉徴収が必要になることがあります。原則として、非居住者に支払う日本国内不動産の賃貸料については、20.42%の源泉徴収が問題になります。
ただし、借主が個人で、その不動産を自己または親族の居住用として借りる場合など、源泉徴収が不要となる場面もあります。
したがって、賃貸先が法人か個人か、居住用か事業用かにより、実務処理が変わります。
納税管理人の選任が必要になる
非居住者が日本で確定申告や納税を行う必要がある場合には、納税管理人の選任を検討する必要があります。
納税管理人とは、日本国内で税務署からの書類を受け取ったり、申告・納税手続を行ったりするための管理者です。個人でも法人でもなることができます。
台湾へ出国する前に、日本で不動産所得が発生する見込みがある場合には、納税管理人を誰にするかを決め、必要な届出を行っておくことが重要です。
日本不動産を売却する場合の注意点
非居住者が日本国内の土地・建物を売却する場合、その譲渡所得について日本で課税関係が生じます。
また、非居住者から日本国内不動産を購入する買主は、原則として売買代金の10.21%を源泉徴収する必要があります。ただし、一定の居住用取得で売買代金が1億円以下の場合など、例外もあります。
不動産投資では、購入時だけでなく、売却時の源泉徴収、譲渡所得の申告、納税管理人、還付申告まで含めて設計しておく必要があります。
日本株式投資を行う場合の注意点
日本株式投資では、まず税務以前に、証券会社の実務対応を確認する必要があります。
日本の証券会社では、顧客が海外居住者になると、口座の維持、新規買付、特定口座、NISA、信用取引などに制限を設けることがあります。
出国前に、次の点を必ず確認しておくべきです。
- 台湾居住者になった後も口座を維持できるか
- 新規買付ができるか
- 特定口座を継続できるか
- NISA口座はどうなるか
- 配当金の受取方法
- 台湾住所への変更が可能か
- マイナンバー、在留資格、本人確認書類の扱い
日本法人から受ける配当は、日本の国内源泉所得に該当します。非居住者が日本株式の配当を受ける場合、日本で源泉徴収されるのが基本です。
日台民間租税取決めに基づき、一定の源泉所得税について軽減または非課税の適用を受けられる可能性がありますが、そのためには所定の届出書を源泉徴収義務者を通じて税務署へ提出するなどの手続が必要です。
日本株式の譲渡益はどうなるか
一般的な上場株式の譲渡益については、非居住者で、日本に恒久的施設を持たない場合、日本で常に課税されるとは限りません。
ただし、次のような場合には注意が必要です。
- 日本に恒久的施設がある場合
- 不動産関連法人株式に該当する場合
- 大口株主に該当する場合
- 未上場株式を保有・譲渡する場合
- 日本法人を通じて株式投資を行う場合
- 台湾側で申告対象となる場合
日本で課税されない所得であっても、台湾側で申告・課税対象となる可能性があります。株式投資については、日本の源泉徴収だけで判断せず、台湾側の申告も確認する必要があります。
日本法人を作る案はどう考えるべきか
本人は、日本に法人を作ることも検討しているとのことです。
日本法人を作ること自体は可能です。ただし、このケースでは、日本法人の設立を「節税策」として安易に考えるべきではありません。
むしろ、日本法人を作ることで、管理、会計、申告、資金移動、台湾側の確認事項が増える可能性があります。
日本法人を作るメリット
日本法人を作る主なメリットは、次のとおりです。
- 日本不動産を法人名義で保有できる
- 個人資産と投資資産を分けやすい
- 会計管理・経費管理を明確にしやすい
- 複数物件を取得する場合、投資事業の器として使いやすい
- 銀行融資の受け皿になる場合がある
- 将来の相続・贈与・資産承継設計に使える場合がある
- 共同投資を行う場合、権利関係を整理しやすい
ただし、これらは「税金が安くなる」というより、「投資事業を管理する器を作る」という意味合いが強いものです。
日本法人を作るデメリット
一方で、日本法人を作る場合には、次のような負担が発生します。
- 法人設立費用がかかる
- 毎年、法人税・地方税・消費税の申告が必要になる
- 赤字でも法人住民税均等割が発生する
- 会計処理や税理士報酬が必要になる
- 役員報酬を支払う場合、源泉徴収や社会保険の問題が出る
- 法人から個人へ資金を戻す際、給与・配当・貸付返済などの整理が必要になる
- 代表者が海外居住の場合、銀行口座開設や融資審査で実務上のハードルが上がる可能性がある
- 台湾側で、実質的な管理場所や恒久的施設の論点が生じる可能性がある
特に注意すべきなのは、日本法人を設立したものの、実際の意思決定や管理を台湾から行っている場合です。
日本法人は日本の内国法人として課税されますが、台湾側でも実質管理地や事業活動の実態に着目して、課税関係が問題になる可能性があります。
少額・初期段階なら個人名義がシンプルな場合が多い
不動産投資が1件または2件程度で、本人単独の資金で始めるのであれば、最初から日本法人を作るより、個人名義で取得し、納税管理人を置いて申告する方がシンプルな場合があります。
一方で、次のような場合には、日本法人の設立を検討する余地があります。
- 複数物件を継続的に取得する予定がある
- 融資を本格的に活用する
- 日本で不動産賃貸業として拡大する予定がある
- 妻や親族を含めた資産管理を考えている
- 相続・贈与・承継まで含めた設計をしたい
- 日本帰国後も投資事業を継続する予定がある
法人化は、投資規模、融資、承継、管理体制を含めて判断するべきです。
国外転出時課税にも注意する
出国時に1億円以上の有価証券等を保有している場合には、国外転出時課税、いわゆる出国税の確認が必要です。
国外転出時課税は、一定の居住者が国外転出をする時点で、1億円以上の対象資産を所有している場合に、その対象資産を譲渡したものとみなして含み益に課税する制度です。
対象者となるかどうかは、主に次の点で確認します。
- 出国時に対象資産の価額合計が1億円以上あるか
- 国外転出前10年以内に、日本国内に5年を超えて住所または居所を有していたか
台湾人であっても、日本での居住期間や保有資産額によっては対象となる可能性があります。
医師として日本で一定期間勤務し、株式や投資信託などの金融資産を保有している場合には、出国前に必ず確認しておくべき項目です。
住民税・社会保険・住民票も整理する
税務上の居住者判定とは別に、住民税、住民票、健康保険、年金の扱いも確認が必要です。
住民税は、原則として1月1日に日本に住所があるかどうかが重要です。出国した後でも、前年所得に対する住民税の納付が残ることがあります。
また、住民票を抜くかどうかにより、国民健康保険、国民年金、印鑑証明、銀行・証券口座、郵便物の受取などにも影響します。
税務だけでなく、生活実務としても出国前に整理しておくことが大切です。
台湾で稼いだお金を日本へ送金する場合
台湾で得た医師収入を日本へ送金し、日本の不動産や株式に投資すること自体は、通常可能です。
ただし、次の点を整理しておく必要があります。
- 台湾で適正に申告・納税済みの資金であること
- 送金記録を保存しておくこと
- 医師収入、貯蓄、借入金など資金原資を説明できるようにすること
- 日本の銀行で海外送金の受入確認が行われる可能性があること
- 円転時の為替差損益を管理すること
- 日本法人へ入金する場合、出資か貸付かを明確にすること
日本法人を設立して台湾から資金を入れる場合には、出資なのか、役員借入金なのか、金銭消費貸借契約に基づく貸付なのかを明確にしておく必要があります。
この整理が曖昧なままだと、後日、法人の資本金、借入金、役員貸付金、配当、返済の処理が不明確になります。
個人投資と法人投資の比較
| 項目 | 個人名義で投資 | 日本法人で投資 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 比較的低い | 設立費用がかかる |
| 毎年の申告 | 不動産所得等があれば必要 | 法人税申告が毎年必要 |
| 赤字時の負担 | 比較的小さい | 均等割・会計費用が発生する |
| 不動産投資 | 小規模ならシンプル | 複数物件なら管理しやすい |
| 株式投資 | 証券口座制限に注意 | 法人口座開設が必要 |
| 資金移動 | 個人資金として分かりやすい | 出資・貸付の整理が必要 |
| 台湾側との関係 | 個人課税中心 | 管理地・PEの論点に注意 |
| 将来の承継 | 個人資産として相続対象 | 株式承継の設計が可能 |
| 節税効果 | 限定的 | 規模次第。小規模では負担増の可能性 |
実務上のよくある失敗例
このような国際的な生活移動と投資では、次のような失敗が起こりやすくなります。
- 日本の非居住者になる前提で動いていたが、生活の本拠の整理が不十分だった
- 日本の不動産賃料について、源泉徴収が必要な取引であることを見落としていた
- 納税管理人を選任しないまま出国し、税務署からの書類対応が遅れた
- 証券会社に海外居住者になることを伝えず、後で取引制限が判明した
- NISAや特定口座の扱いを確認しないまま出国した
- 日本法人を作ったものの、毎年の申告・均等割・会計処理の負担が重くなった
- 台湾で稼いだ資金を日本法人に入れたが、出資か貸付かの整理が不明確だった
- 国外転出時課税の対象資産を確認しないまま出国した
相談時に確認すべき事項
実際に判断するためには、最低限、次の情報を確認する必要があります。
- 本人の国籍、在留資格、日本での居住年数
- 出国予定日と帰国予定日
- 台湾での勤務形態、勤務先、収入見込み
- 日本に自宅を残すか、賃貸に出すか、売却するか
- 妻の勤務、資産、住民票、居住予定
- 日本の銀行口座・証券口座の扱い
- 現在保有している有価証券等の時価が1億円以上あるか
- 日本で購入予定の不動産の規模、用途、賃貸先
- 日本株式投資の予定額と投資方法
- 日本法人を作る目的が、不動産保有か、株式投資か、資産管理か
- 台湾側の税理士・会計士に相談できる体制があるか
まとめ
台湾人医師が3年程度台湾へ戻り、その間に台湾で得た収入を使って日本で不動産投資や株式投資を行う場合、最も重要なのは、投資そのものよりも、日本と台湾の双方での居住者判定です。
3年程度台湾に生活拠点を移す場合、日本では非居住者となる可能性が高くなります。その場合、台湾で得た医師収入は通常、日本では課税対象外となる方向で整理しますが、日本国内不動産の賃料、譲渡所得、日本法人からの配当などについては、日本で課税関係が残ります。
また、日本法人を作る案については、節税というより、投資事業を管理する器として必要かどうかで判断すべきです。小規模な投資であれば、個人名義で始めた方がシンプルな場合もあります。
最初の提案としては、個人名義での投資を前提に、納税管理人、証券口座、台湾側申告、国外転出時課税を整理し、投資規模が大きくなる場合に日本法人を検討する進め方が現実的です。
藁総合会計事務所へのご相談
藁総合会計事務所では、海外転居を伴う日本の税務、非居住者の不動産所得、日本法人設立、資産管理会社、相続・不動産・資金移動に関するご相談を承っています。
日本と台湾の双方にまたがる税務判断では、出国前の整理が非常に重要です。判断に迷う場合には、台湾側の専門家とも連携しながら、早めに確認されることをおすすめします。
参考資料
- 国税庁「非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」
- 国税庁「非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」
- 国税庁「所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出」
- 国税庁「国外転出時課税制度」
- 国税庁「外国居住者等所得相互免除法関係(日本と台湾との民間租税取決め)」
- JETRO「台湾 税制」
- 台湾財政部・国税局「Alien Individual Income Tax」関連情報