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事前確定届出給与とは?中小企業でありがちな役員賞与の失敗例

役員に賞与を支給したい。

中小企業の経営者であれば、一度は検討したことがあるテーマではないでしょうか。

会社の業績が良かったときに、社長や役員にも賞与を支給したい。あるいは、毎月の役員報酬を抑えつつ、利益や資金繰りを見ながら年1回の賞与で調整したい。

このような考え方自体は、経営上自然なものです。

しかし、税務上、役員賞与は従業員賞与と同じようには扱われません。法人税では、役員給与について損金算入できる範囲が厳しく制限されています。

その中で、役員賞与を損金算入するために利用される制度が「事前確定届出給与」です。

ただし、この制度は「届出を出せば節税になる」という単純なものではありません。むしろ、中小企業では、届出後に資金繰りや業績が変わり、予定どおり支給できなくなるケースが少なくありません。

今回は、事前確定届出給与の基本と、中小企業でありがちな失敗例、特に「賞与不支給」の注意点について整理します。

1. 事前確定届出給与とは

事前確定届出給与とは、役員に対して「いつ、いくら支給するか」を事前に決め、その内容を税務署に届け出たうえで、届出どおりに支給する給与のことです。

たとえば、次のような形です。

代表取締役に対して、令和○年12月25日に300万円を支給する

このように、支給日と支給額をあらかじめ確定し、期限までに税務署へ届出を行います。

そして、実際の支給時には、届出書に記載した支給日に、記載した金額を支給する必要があります。

つまり、事前確定届出給与は、単なる予定ではありません。

  • 利益が出たら支給する
  • 資金繰りに余裕があれば支給する
  • 金額は後で調整する

というものではなく、支給日と支給額を事前に確定させる制度です。

2. 役員賞与が自由に損金にならない理由

従業員に対する給与や賞与は、労働の対価として支給されるものです。

一方、役員給与は、会社の経営判断に関わる人に対する支払いです。特に中小企業では、社長が株主であり、代表者であり、報酬を決める立場でもあることが多くあります。

この場合、利益が出た後に「今年は利益が出たから、社長に賞与を出そう」と自由に決められると、法人税の利益調整に使われる可能性があります。

そのため、法人税では、役員給与のうち損金算入できるものを限定しています。

代表的なものが、毎月同額を支給する「定期同額給与」と、今回のテーマである「事前確定届出給与」です。

事前確定届出給与は、役員賞与を損金算入するための制度ですが、要件を満たさない場合には損金になりません。

3. 届出期限を過ぎると使えない

事前確定届出給与でまず注意すべきなのは、届出期限です。

原則として、事前確定届出給与に関する届出書は、次のいずれか早い日までに提出する必要があります。

  • 株主総会等で支給内容を決議した日から1か月を経過する日
  • 会計期間開始の日から4か月を経過する日

たとえば、3月決算法人であれば、期首は4月です。通常、定時株主総会で役員報酬を決める場合、その決議日から1か月以内、かつ期首から4か月以内という期限を意識する必要があります。

「決算が近くなって利益が出そうだから、役員賞与を出したい」と考えても、その時点では届出期限を過ぎていることがあります。

事前確定届出給与は、決算直前の節税策として慌てて使う制度ではありません。事業年度の早い段階で、役員報酬全体の設計として検討する制度です。

4. 届出どおりに支給しないと損金にならない

事前確定届出給与で最も重要なのは、届出どおりに支給することです。

たとえば、次のようなケースは注意が必要です。

  • 届出額は300万円だったが、実際には200万円だけ支給した
  • 届出日は12月25日だったが、実際には12月28日に支給した
  • 届出では1回支給だったが、実際には分割して支給した
  • 業績が良かったため、届出額より多く支給した
  • 資金繰りが悪くなり、まったく支給しなかった

これらは、いずれも届出内容と実際の支給内容が異なるケースです。

事前確定届出給与は、届出額と実際の支給額が一致しているか、届出上の支給日と実際の支給日が一致しているかが重要です。

「少しだけ違う」「数日だけ遅れた」という場合でも、税務上は問題になる可能性があります。

中小企業では、資金繰りの都合で「とりあえず半分だけ払う」「今月は厳しいので来月に払う」といった判断をしがちです。しかし、事前確定届出給与については、その柔軟な対応が税務上の否認リスクにつながります。

5. 中小企業でありがちな失敗例1:資金繰りが悪くなり支給できない

実務で非常に多いのが、届出をした時点では支給できると思っていたものの、支給時期になって資金繰りが悪化し、支給できなくなるケースです。

たとえば、次のような場合です。

6月の株主総会で、12月に社長へ300万円の役員賞与を支給すると決議し、税務署にも届出をした。しかし、秋以降に売上が落ち込み、12月時点では資金繰りが厳しくなった。

この場合、届出どおりに支給できなければ、事前確定届出給与としての損金算入に問題が生じます。

特に、全額を支給しない場合には、「実際に支給していないのだから、損金もない」と考えがちです。

たしかに、実際に支給していない以上、その賞与を費用として損金算入することはできません。

しかし、株主総会等で支給する旨を決議していた場合には、支給日が到来した時点で、役員に報酬請求権が発生していると考えられることがあります。

その後に「やはり支給しない」とした場合には、会社側では未払債務を免除された、つまり債務免除益の問題が出る可能性があります。

したがって、「払わなければ何も起きない」と考えるのは危険です。

6. 中小企業でありがちな失敗例2:一部だけ支給する

次に多いのが、一部支給です。

たとえば、届出では300万円としたものの、資金繰りの都合で100万円だけ支給するケースです。

この場合、「支給した100万円だけでも損金にならないか」と考えたくなります。

しかし、事前確定届出給与は、届出どおりの支給が求められます。届出額と実際の支給額が異なる場合、原則として事前確定届出給与には該当しません。

つまり、「300万円の届出に対して100万円だけ支給したから、その100万円は損金」という単純な処理はできません。

また、反対に、届出額より多く支給した場合も注意が必要です。差額だけが損金不算入になるのではなく、実際に支給した金額全体が問題になる可能性があります。

事前確定届出給与は、「おおむね届出どおり」では足りません。

金額も支給日も、届出内容と一致させることが重要です。

7. 中小企業でありがちな失敗例3:社長だけ不支給にする

中小企業では、資金繰りが厳しいときに、社長だけが賞与を辞退することがあります。

たとえば、複数の役員について事前確定届出給与を届け出ていたものの、会社の資金繰りを考えて、社長だけ支給を受けないというケースです。

この場合、社長分については、届出どおりに支給されていないため、事前確定届出給与としての損金算入は問題になります。

一方で、他の役員について届出どおりに支給している場合には、原則として、その役員ごとに判定されます。

つまり、社長分が届出どおりでなかったからといって、届出どおりに支給した他の役員分まで当然に損金不算入になるわけではありません。

ただし、社長だけ不支給にする場合でも、支給日前に不支給の意思決定を行い、議事録や受領辞退届などの記録を残しておくことが重要です。

8. 賞与を不支給にする場合は「支給日前」が重要

役員賞与を支給しない判断をする場合、実務上もっとも重要なのはタイミングです。

支給日が到来する前に、役員本人が受領を辞退し、会社としても不支給を決議しているか。

それとも、支給日が過ぎた後に「やはり払わない」としたのか。

この違いは大きいです。

支給日前に、役員本人が賞与の受領を辞退し、会社として不支給を決議していれば、給与課税や未払債務の問題を避けやすくなります。

一方、支給日が過ぎた後に不支給とした場合には、すでに役員に報酬請求権が発生していると見られ、会社側では債務免除益、役員側では給与課税や源泉所得税の問題が出る可能性があります。

そのため、事前確定届出給与を不支給にする場合には、「支給日が来る前」に判断し、書類を整えておくことが重要です。

9. 不支給にする場合に残しておきたい書類

事前確定届出給与を不支給にする場合には、口頭で「今年は払わない」と決めるだけでは不十分です。

後から見て、なぜ支給しなかったのか、いつ不支給を決めたのか、役員本人が受領を辞退していたのかが分かるようにしておく必要があります。

実務上、少なくとも次のような書類を残しておくことが望ましいです。

  • 臨時株主総会議事録または取締役会議事録
  • 役員本人の賞与受領辞退届
  • 不支給を決定した日付が分かる資料
  • 資金繰り悪化、業績悪化などの理由を説明できる資料
  • 当初の事前確定届出給与に関する届出書の控え
  • 会計処理の根拠メモ

特に重要なのは、支給日前に不支給の判断をしたことが分かる資料です。

支給日後に慌てて書類を作ると、税務調査で説明が難しくなります。

10. 「業績が悪ければ払わない」という使い方は慎重に

中小企業では、事前確定届出給与について、次のように考えることがあります。

業績が良ければ支給する。業績が悪ければ支給しない。そうすれば、利益が出た年だけ役員賞与を出せるのではないか。

一見、合理的に見えます。

しかし、事前確定届出給与は、業績を見て後から支給するかどうかを自由に決める制度ではありません。

あらかじめ支給日と支給額を確定し、そのとおりに支給することが前提です。

もちろん、経営状況が悪化し、やむを得ず不支給とする場合はあります。しかし、最初から「払うか払わないかは後で決める」という前提で利用すると、制度の趣旨から外れてしまいます。

役員賞与を支給するかどうかは、節税だけでなく、資金繰り、金融機関対応、役員個人の税負担、社会保険料への影響も含めて検討する必要があります。

11. 事前確定届出給与を検討するときのチェックポイント

事前確定届出給与を利用する場合には、次の点を確認しておきましょう。

  • 届出期限に間に合うか
  • 株主総会等の決議内容と届出書の内容が一致しているか
  • 支給日と支給額が明確に決まっているか
  • 支給日に必要な資金を確保できるか
  • 法人税だけでなく、所得税、住民税、社会保険料も考慮しているか
  • 届出どおりに支給できない場合のリスクを理解しているか
  • 不支給にする可能性がある場合、支給日前の手続きを整理しているか

事前確定届出給与は、届出書を出すことよりも、その後に届出どおり実行できるかが重要です。

まとめ:事前確定届出給与は「節税策」よりも「設計と実行」が大切

事前確定届出給与は、役員賞与を損金算入するための有効な制度です。

しかし、中小企業では、届出後に資金繰りや業績が変わり、予定どおり支給できなくなることがあります。

特に注意したいのは、次のようなケースです。

  • 届出したが、資金繰りが悪くなり支給しなかった
  • 届出額より少ない金額だけ支給した
  • 支給日をずらして支給した
  • 社長だけ賞与を辞退した
  • 支給日後に不支給を決めた

これらは、いずれも税務上の問題につながりやすいケースです。

役員賞与を不支給にする場合には、支給日前に意思決定を行い、議事録や受領辞退届などの証拠資料を残しておくことが重要です。

事前確定届出給与は、「届出を出せば節税になる制度」ではありません。

支給日、支給額、届出期限、議事録、実際の支給記録まで、すべてを整合させて初めて効果を発揮する制度です。

役員賞与を検討する場合には、決算直前ではなく、事業年度の早い段階で役員報酬全体の設計を行うことをおすすめします。

藁総合会計事務所では、中小企業の役員報酬設計、事前確定届出給与、賞与不支給時の税務処理、決算対策、資金繰りを含めた税務相談を承っています。役員賞与や役員報酬の見直しを検討されている経営者の方は、お気軽にご相談ください。

参考資料