ボーナス支給時にやりがちな税務ミス
夏や冬の賞与、決算賞与など、従業員にボーナスを支給する場面は多くの会社であります。
賞与は、従業員のモチベーションを高める大切な制度です。一方で、給与とは少し違う税務・社会保険の処理が必要になるため、実務では意外とミスが起きやすい項目です。
特に中小企業では、「給与計算ソフトに入力して終わり」「毎月の給与と同じ感覚で処理している」というケースも少なくありません。しかし、賞与には賞与特有の源泉徴収、社会保険の届出、法人税上の損金算入時期、役員賞与の制限などがあります。
今回は、ボーナス支給時にやりがちな税務ミスを、実務上の注意点として整理します。
1. 賞与の源泉所得税を毎月給与と同じ感覚で計算してしまう
賞与を支給する際には、所得税の源泉徴収が必要です。
ここで注意したいのは、賞与の源泉徴収税額は、通常の月給とは計算方法が異なるという点です。賞与については、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて計算します。
このとき、前月の給与額、社会保険料等の控除額、扶養親族等の数などをもとに、賞与に対する税率を確認します。
よくあるミスは、毎月の給与と同じ感覚で源泉所得税を計算してしまうことです。賞与は金額が大きくなることも多いため、源泉所得税の計算を誤ると、年末調整で大きな差額が出たり、会社側の事務負担が増えたりします。
賞与計算を行う際には、給与計算ソフトの設定が正しいか、扶養親族等の数が最新か、前月給与の情報が正しく反映されているかを確認することが大切です。
2. 社会保険料の控除と賞与支払届を忘れてしまう
賞与にも、健康保険料・厚生年金保険料などの社会保険料がかかります。
賞与にかかる社会保険料は、税引前の賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」をもとに計算します。保険料は、毎月の給与と同じく、会社と従業員が折半して負担します。
ここで起きやすいミスが、賞与から社会保険料を控除し忘れることです。
賞与支給後に控除漏れが判明すると、従業員から追加で徴収する必要が生じる場合があります。金額が大きくなると、従業員への説明も難しくなります。
また、賞与を支給した場合には、日本年金機構へ「被保険者賞与支払届」を提出する必要があります。提出期限は、原則として賞与支払日から5日以内です。
賞与を支給する前に、次の点を確認しておきましょう。
- 賞与から社会保険料を控除しているか
- 標準賞与額の計算に誤りがないか
- 賞与支払届の提出を忘れていないか
- 賞与支払予定月に支給しなかった場合の手続きが必要か
3. 決算賞与を未払計上しただけで損金にできると思ってしまう
中小企業で特に注意したいのが、決算賞与です。
「今期は利益が出そうなので、従業員に決算賞与を出したい」という判断自体は、従業員への還元としても、経営上の判断としても有効です。
しかし、税務上は、単に決算時に未払賞与として会計処理をしただけでは、その期の損金として認められない場合があります。
使用人賞与を未払計上して当期の損金にするためには、原則として、各人別に支給額を通知していること、通知したすべての従業員に対して事業年度終了後1か月以内に支払っていること、その事業年度で損金経理していることなど、一定の要件を満たす必要があります。
ここでよくあるミスは、決算日近くに「賞与を出す予定」と社内で決めただけで、具体的な通知や支給手続きが不十分なまま未払計上してしまうケースです。
また、「支給日に在職している人だけに支給する」という条件がある場合には、税務上の通知要件との関係で注意が必要です。
決算賞与を税務上も適切に処理するためには、決算日直前ではなく、早めに支給方針、対象者、支給額、通知方法、支給日を整理しておくことが大切です。
4. 役員賞与を従業員賞与と同じように考えてしまう
役員に賞与を支給する場合は、従業員賞与とは大きく取り扱いが異なります。
法人税では、役員に対する給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与など、一定の要件を満たすものに限って損金算入が認められます。
そのため、利益が出たからといって、期末に社長や役員へ臨時に賞与を支給しても、原則として損金に算入できない可能性が高くなります。
特に中小企業では、「従業員にも賞与を出すので、社長にも少し出そう」という感覚で処理してしまうことがあります。しかし、役員賞与は税務上の制限が厳しく、事前の届出や決議内容との整合性が重要です。
役員に賞与を支給したい場合には、事前確定届出給与として手続きを行うのか、役員報酬全体の設計をどうするのかを、事業年度の早い段階で検討する必要があります。
5. 賞与の資金繰りを税金・社会保険込みで見ていない
賞与を支給するときは、従業員に支払う手取り額だけでなく、会社が負担する社会保険料や源泉所得税の納付も含めて資金繰りを考える必要があります。
例えば、従業員への賞与総額を決めたあとに、会社負担分の社会保険料を見落としていると、想定以上に資金が出ていくことになります。
また、源泉所得税は、原則として支給月の翌月10日までに納付します。納期の特例を受けている会社でも、賞与支給分を含めた源泉所得税の納付額が大きくなることがあります。
賞与は、従業員への支給額だけでなく、次の支出もセットで考える必要があります。
- 従業員への賞与手取り額
- 源泉所得税
- 住民税の控除
- 従業員負担分の社会保険料
- 会社負担分の社会保険料
- 賞与支払届などの事務手続き
「賞与を出したあとに資金繰りが苦しくなった」ということがないよう、支給前に総額ベースで確認しておくことが重要です。
6. 賞与規程や支給基準があいまいなまま運用している
賞与は、会社の業績や従業員の評価に応じて支給されるものです。そのため、支給額に差が出ること自体は自然なことです。
しかし、賞与規程や支給基準があいまいなまま運用していると、税務処理だけでなく、労務上のトラブルにつながることがあります。
特に、決算賞与や臨時賞与を支給する場合には、誰に、いくら、いつ、どのような基準で支給するのかを整理しておくことが大切です。
税務上も、未払賞与の損金算入を検討する場合には、各人別の支給額の通知や支給時期が重要になります。経営判断として賞与を支給する場合でも、記録を残しておくことが実務上の防衛になります。
まとめ:賞与は「支給日」だけでなく「事前準備」が大切です
賞与は、従業員にとって大きな関心事であり、会社にとっても人材定着や業績還元のための大切な制度です。
一方で、賞与には、毎月の給与とは異なる税務・社会保険の注意点があります。
特に注意したいのは、次の点です。
- 賞与の源泉所得税を正しく計算すること
- 社会保険料の控除と賞与支払届を忘れないこと
- 決算賞与を未払計上する場合は税務上の要件を確認すること
- 役員賞与は従業員賞与とは別に考えること
- 賞与支給後の税金・社会保険料まで含めて資金繰りを見ること
賞与は、支給して終わりではありません。支給前の準備、支給時の計算、支給後の届出・納付までを一連の流れとして確認することが大切です。
「今回は利益が出たので賞与を出したい」「決算賞与を検討している」「役員にも賞与を支給したい」といった場合には、支給前に税務上の取り扱いを確認しておくことをおすすめします。
藁総合会計事務所では、中小企業の賞与支給、決算賞与、役員報酬設計、資金繰りを含めた税務相談を承っています。賞与の支給を検討されている経営者の方は、お気軽にご相談ください。
参考資料
- 国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm - 国税庁「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm - 国税庁「No.5211 役員に対する給与」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm - 日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20141203.html