経営者にもしものことがあったら――判断能力の低下に備える経営のリスク管理
はじめに
企業経営において、多くのリスクが存在します。
売上の減少、取引先の倒産、人材不足、自然災害、サイバー攻撃など、経営者は常に様々なリスクへの対応を求められています。
しかし、意外と見落とされがちなリスクがあります。
それは、「経営者自身の判断能力の低下」です。
高齢化社会を迎えた現在、認知症だけでなく、うつ病やその他の精神疾患によって判断能力が低下し、経営に重大な影響を及ぼすケースがあります。
今回は、経営者自身に万が一のことがあった場合に備え、どのような準備をしておくべきかについて考えてみたいと思います。
経営者の判断能力低下は会社全体の問題
一般社員が病気で休職した場合、他の社員が業務を引き継ぐことができます。
しかし、中小企業では経営者自身が、営業の中心、資金繰りの責任者、銀行との交渉窓口、人事権者、最終決裁者であることが少なくありません。
そのため、経営者の判断能力が低下すると、会社全体が機能不全に陥る可能性があります。
- 重要な契約が締結できない
- 銀行融資の手続きが進まない
- 給与支払や納税の判断が遅れる
- 取引先との交渉が滞る
- 社員が意思決定を仰げなくなる
特にオーナー企業では、「社長=会社」という状態になっていることも多く、その影響は想像以上に大きなものとなります。
認知症だけではない「うつ病」のリスク
判断能力の低下というと、認知症をイメージする方が多いかもしれません。
しかし、実際にはうつ病も経営判断に大きな影響を与えることがあります。
うつ病になると、集中力が続かない、決断ができない、将来を極端に悲観する、物事を客観的に見られなくなる、といった症状が現れることがあります。
例えば、本来であれば乗り越えられる経営課題に対しても、
「もう会社は終わりだ」
「何をやっても無駄だ」
と考えてしまうことがあります。
また、強いストレスの影響で正常な判断ができず、無理な投資や極端な経営判断を行うケースもあります。
経営者は責任感が強い方が多いため、自身の不調に気づきにくいことも特徴です。
「元気なうち」に準備することが重要
判断能力が低下してから対策を講じようとしても、手遅れになる場合があります。
そのため、重要なのは「元気なうち」の準備です。
1. 権限を一人に集中させない
経営者しか分からない業務が多い会社ほどリスクは高まります。
銀行取引、主要取引先との関係、契約書管理、会計・税務情報などについて、役員や幹部社員と情報共有を進めることが重要です。
2. 社内の意思決定体制を整える
経営者が不在になった場合、「誰が何を決めるのか」を事前に整理しておく必要があります。
平時から役員会や幹部会議を機能させることは、有事への備えにもなります。
3. 銀行口座や重要書類を整理する
意外と多いのが、「社長しか口座情報を知らない」というケースです。
銀行口座、借入契約、保険契約、不動産関係書類、株主関係書類などについては、整理して保管場所を明確にしておくべきでしょう。
4. 事業承継計画を作る
事業承継は高齢になってから考えるものではありません。
病気や事故は年齢に関係なく起こります。
後継者候補の育成や株式の承継計画などを早めに検討しておくことが重要です。
5. 任意後見契約や民事信託を検討する
将来の判断能力低下に備える制度として、任意後見契約や民事信託などがあります。
成年後見制度が開始されると、財産管理や会社経営に様々な制約が生じる場合があります。
そのため、元気なうちに準備できる制度の活用も選択肢の一つです。
経営者の健康も重要な経営資源
企業経営では、「人・モノ・カネ」が重要だと言われます。
しかし、中小企業においては、「経営者自身」こそが最も重要な経営資源かもしれません。
経営者が倒れれば、会社も大きな影響を受けます。
- 定期的な健康診断
- 適切な休養
- 専門家への相談
- 業務の分散
これらを意識することは、会社を守るための重要な経営判断です。
まとめ
経営者の判断能力低下は、決して高齢者だけの問題ではありません。
うつ病や精神的ストレス、事故や病気によって、誰にでも起こり得るリスクです。
会社を守るために必要なのは、経営者が一人で抱え込むことではありません。
むしろ、万が一の事態が起きても会社が継続できる体制を整えることが、本当の意味でのリスク管理と言えるでしょう。
「自分はまだ大丈夫」と思っている今こそ、一度会社の体制を見直してみてはいかがでしょうか。