立退き(明渡し)をめぐる裁判・和解で、賃借人が「解決金」「立退料」「移転補償」などの名目で金銭を受け取ることがあります。 このとき実務で迷いやすいのが、原則は課税と言われる一方で、「慰謝料(非課税)」の要素が混ざっていないかという点です。
結論から言うと、立退きに伴う受領金は“名称”ではなく“中身(何を補てんするお金か)”で区分して課税関係を判定します。 そして多くのケースでは、立退料(解決金)として課税されるのが基本線です。
1. まず原則:立退料は「中身で3区分」して整理
国税庁は、賃借人が受け取る立退料について、内容に応じて次の3つの性格に区分し、それぞれ所得区分(課税関係)を判定する整理を示しています。 参考:国税庁タックスアンサー「立退料を受け取ったとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3155.htm
立退料の3区分(実務の出発点)
- 借家権等の消滅の対価(権利の対価)
→ 原則:譲渡所得(総合課税) - 休業等による収入減・必要経費増の補填(店舗・事業をしていた場合など)
→ 原則:事業所得等の収入金額 - 上記1・2以外(転居に伴う一時的な補助等)
→ 原則:一時所得
つまり、立退きの「解決金」は、まずこの枠組みに当てはめて考え、通常は課税を前提に整理するのが基本です。
2. 立退きの「慰謝料」は非課税になりにくい理由
所得税が非課税となる慰謝料等は、典型的には交通事故など「心身に加えられた損害」の補償です。 国税庁は、治療費・慰謝料・損害賠償金等についての非課税の整理を示しています。参考:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1700.htm
しかし、立退きの場面で「迷惑料」「精神的負担への配慮」などと呼ばれる金銭は、実態として 借家権の放棄の対価や移転・休業等の不利益補償に近いことが多く、 “心身損害そのもの”の慰謝料(非課税)として認定するハードルが高いのが実務感です。
また、損害賠償金の性質が一見「補償」に見えても、内容が必要経費の補てんに当たる部分は、課税(収入計上)となり得る点も要注意です(上記1700の整理)。
3. 非課税の慰謝料があり得るケース(例外)
例外的に可能性が出るのは、立退きと別筋で、賃貸人側の行為により心身の損害(人的損害)が生じたといえる場合です。 例えば、執拗な嫌がらせ・名誉毀損・暴行等で、診断書等により損害が裏付けられ、判決や和解条項で不法行為慰謝料として独立して認定されるようなケースです。
ポイント:「慰謝料」というラベルより、根拠(不法行為の事実・損害の内容)と 金額の合理性が説明できるかが重要です。
4. 実務対応:内訳で分ける/根拠を残す
税務上のリスクを下げる現実的な方法は、判決主文・和解調書・示談書の段階で「内訳」を切り分けることです。 可能なら、次のように費目を分け、各費目の根拠資料(見積・計算表・診断書等)を保存します。
内訳の例(イメージ)
- 借家権の消滅対価:◯円(譲渡所得の検討)
- 移転費用相当:◯円(一時所得の検討)
- 休業補償・営業補償:◯円(事業所得等の収入の検討)
- 不法行為に基づく慰謝料:◯円(非課税の主張余地)
なお、同じ「補償」でも、必要経費を補てんする部分は課税になり得ます。 「費目の切り分け」と「根拠資料の保存」が、申告・説明の安全性を大きく左右します。
5. 盲点:遅延損害金(利息相当)の切り分け
判決で「年◯%の遅延損害金」が付く場合があります。遅延損害金は利息相当の性格を持つため、 元本(立退料や損害賠償金)と同じ取扱いにならないことがあります。 実務では、入金額に遅延損害金が含まれていないかを確認し、内訳で切り分けることが重要です。 (参考資料として、国税不服裁判所の裁決事例集等が公表されています)
参考(PDF):
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2013/pdf/12353.pdf
まとめ
- 立退き裁判の受領金は、まず国税庁の「3区分(譲渡・事業・一時)」で整理するのが基本
- 立退きの「慰謝料」は、実態が借家権対価・移転補償等に近いことが多く、非課税として通るとは限らない
- ただし、不法行為等で心身損害が独立して認定できるなら、非課税の主張余地が出る
- 実務の要点は「内訳の切り分け」と「根拠資料の保存」
- 遅延損害金が混ざりやすいので、必ず切り分ける
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別事情により結論が異なる場合がありますので、具体的な事案は専門家へご相談ください。