観光関連企業が企業版ふるさと納税を活用する際の注意点
企業版ふるさと納税は、企業が地方公共団体の地方創生事業に寄附を行った場合に、法人関係税の税額控除を受けられる制度です。正式には「地方創生応援税制」と呼ばれます。
近年では、観光、地域振興、文化財保護、まちづくり、移住促進、子育て支援など、さまざまな自治体事業で企業版ふるさと納税が活用されています。
特に旅行業、宿泊業、観光関連サービス業などでは、観光地の自治体との関係を深める意味で、企業版ふるさと納税を検討するケースがあります。
たとえば、観光関連企業が京都市などの観光都市に寄附を行う場合、単なる税負担軽減だけでなく、地域の観光振興や持続可能なまちづくりを応援するという意味を持たせることができます。
ただし、企業版ふるさと納税は「寄附」であり、取引の対価ではありません。自治体との関係強化を目的にする場合でも、経済的利益の供与に該当しないよう、慎重に整理する必要があります。
企業版ふるさと納税とは
企業版ふるさと納税とは、企業が、国の認定を受けた地方公共団体の地域再生計画に基づく事業に寄附をした場合に、法人税、法人住民税、法人事業税の税額控除を受けられる制度です。
通常の寄附金では、一定の範囲で損金算入されることにより、法人税等の負担が軽減されます。企業版ふるさと納税では、これに加えて税額控除が認められるため、最大で寄附額の約9割について税負担が軽減される仕組みになっています。
- 損金算入による税負担軽減:約3割
- 法人住民税・法人税・法人事業税の税額控除:最大約6割
- 合計:最大約9割の税負担軽減
- 企業の実質負担:最小で寄附額の約1割
たとえば、100万円を企業版ふるさと納税として寄附した場合、最大効果が出れば、約90万円の税負担軽減となり、実質負担は約10万円となります。
ただし、これはあくまで「最大」の効果です。実際には、法人住民税、法人税、法人事業税の税額に応じた控除上限があるため、会社の利益状況や税額によって効果は変わります。
観光関連企業が活用する意味
旅行業や観光関連企業にとって、観光地の自治体は、単なる行政機関ではなく、地域づくりや観光政策を進める重要なパートナーです。
観光地の魅力は、旅行会社だけで作れるものではありません。交通、宿泊、文化財、景観、商店街、地域住民、観光案内、イベント、インバウンド対応など、多くの要素が組み合わさって成り立っています。
そのため、観光関連企業が企業版ふるさと納税を通じて自治体の観光振興や地域活性化を支援することには、次のような意味があります。
- 地域の観光資源の維持・発展を応援できる
- 企業の社会貢献活動として説明しやすい
- 観光地との関係性を長期的に深めるきっかけになる
- 自社の事業理念や地域貢献姿勢を社外に発信できる
- 単なる販売促進ではなく、地域全体の価値向上に関わることができる
特に京都市のように、観光、文化、景観、地域経済が密接に関わる都市では、観光関連企業が地域課題に関心を持つこと自体に大きな意味があります。
税務上の効果だけで判断してよいか
企業版ふるさと納税は、税制上のメリットが大きい制度です。しかし、経営判断としては、「税金が安くなるから寄附する」という発想だけでは不十分です。
寄附は、会社から現金が外部に出ていく行為です。たとえ税負担が軽減されるとしても、寄附をした時点では資金が流出します。
そのため、実務上は次の点を確認する必要があります。
- 今期の利益見込みはどの程度か
- 法人税、法人住民税、法人事業税の見込額はいくらか
- 寄附額に対して税額控除を十分に使えるか
- 寄附後の資金繰りに無理がないか
- その自治体や事業を応援する理由を社内外に説明できるか
たとえば、100万円の寄附で最大約90万円の税負担軽減が見込めるとしても、寄附時点では100万円の現金が出ていきます。納税額の減少は後日の申告・納税計算に反映されるため、資金繰りのタイミングにも注意が必要です。
自治体との関係強化を目的にする場合の注意点
観光関連企業の場合、もともと観光局や自治体の観光部門と接点があることも少なくありません。その関係をさらに深める意味で企業版ふるさと納税を行うこと自体は、制度の趣旨に合う面があります。
ただし、注意しなければならないのは、企業版ふるさと納税は「寄附」であり、「見返りを受けるための支払い」ではないという点です。
企業版ふるさと納税では、地方公共団体が寄附企業に対して、寄附の代償として経済的利益を供与することは禁止されています。
たとえば、次のような取り扱いは問題になり得ます。
- 寄附をした企業だけに業務を優先的に発注する
- 寄附の見返りとして、特定の事業者だけを公式に推薦する
- 入札や選定手続で有利に扱う
- 通常は有償の施設やサービスを、寄附企業だけに無償または著しく低額で利用させる
- 寄附と引き換えに、広告枠や販売機会を特別に提供する
一方で、寄附企業の名称を自治体のホームページで紹介する、感謝状を贈呈する、寄附事業の趣旨を広報する、といった社会通念上の範囲内の対応は、一般的には制度上想定されています。
重要なのは、寄附と事業上の便宜が直接結びついていないことを明確にしておくことです。
「関係強化」と「経済的利益」の線引き
観光関連企業が自治体に寄附をする場合、実務上の判断で悩みやすいのは、「関係強化」と「経済的利益」の線引きです。
たとえば、次のような目的であれば、比較的説明しやすいと考えられます。
- 地域の観光振興を応援する
- 文化財や景観保全を支援する
- 持続可能な観光地づくりに貢献する
- オーバーツーリズム対策や観光分散化に協力する
- 地域課題に取り組む企業姿勢を示す
これに対して、次のような目的が前面に出すぎると、注意が必要です。
- 寄附をすることで自治体から仕事をもらいたい
- 観光局との取引を有利に進めたい
- 特定のツアーやサービスを自治体に優遇してもらいたい
- 他社より有利な情報提供を受けたい
- 寄附を営業活動の対価のように位置付ける
企業としては、「関係性を大切にする」ことと「見返りを求める」ことを区別する必要があります。
企業版ふるさと納税は、自治体との関係づくりのきっかけにはなります。しかし、それはあくまで地域貢献や地方創生への参加を通じた信頼形成であり、直接的な営業上の見返りを得る制度ではありません。
寄附先を選ぶときの確認ポイント
企業版ふるさと納税を行う場合、寄附先の自治体や事業を選ぶ際には、次の点を確認することが重要です。
- 寄附先の自治体が、企業版ふるさと納税の対象となる地域再生計画を有しているか
- 寄附する事業が、会社の理念や事業内容と整合しているか
- 本社所在地の自治体への寄附ではないか
- 寄附額が最低寄附額を満たしているか
- 寄附の手続き、申込書、受領証の発行時期を確認しているか
- 決算期までに寄附が完了するか
- 税額控除を受けるための申告書類を準備できるか
企業版ふるさと納税は、本社所在地の自治体への寄附については、税額控除の対象外となります。たとえば、京都市に本社がある会社が京都市に寄附する場合、企業版ふるさと納税の税額控除は使えません。
ただし、その場合でも通常の寄附として、税務上の損金算入の対象になる可能性はあります。制度の対象になるかどうかは、寄附前に必ず確認する必要があります。
100万円を寄附する場合のイメージ
たとえば、観光関連企業が企業版ふるさと納税として100万円を寄附する場合、最大効果が出ると、次のようなイメージになります。
- 寄附額:100万円
- 損金算入による税負担軽減:約30万円
- 税額控除による軽減:最大約60万円
- 合計軽減額:最大約90万円
- 実質負担:最小約10万円
ただし、法人住民税、法人税、法人事業税の税額控除にはそれぞれ上限があります。税額が少ない会社や、欠損金控除により税負担が少ない会社では、最大効果が出ないことがあります。
寄附額を決める前に、当期の利益予測と納税予測を行い、100万円の寄附でどの程度の税額控除を使えるかを確認することが大切です。
よくある失敗例
企業版ふるさと納税では、次のような失敗が起こりやすいです。
- 最大9割軽減という説明だけで寄附額を決めてしまう
- 税額控除の上限を確認していない
- 本社所在地の自治体に寄附してしまい、税額控除の対象外になる
- 寄附と営業上の便宜を結びつけて説明してしまう
- 寄附の目的が社内で共有されていない
- 受領証や申告書類の確認が遅れる
- 決算直前に慌てて寄附先を探す
特に注意すべきなのは、「寄附をしたのだから、何らかの見返りがあるはず」という感覚です。
企業版ふるさと納税は、企業の地域貢献を税制面から後押しする制度です。取引拡大や便宜供与を期待して行うものではありません。
経営者・実務担当者が確認すべきポイント
企業版ふるさと納税を検討する際には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 寄附の目的を明確にする
- 寄附先の自治体・事業が制度対象か確認する
- 自社の本社所在地との関係を確認する
- 当期利益と納税額を試算する
- 税額控除の上限にかからないか確認する
- 寄附後の資金繰りを確認する
- 自治体との関係性について、経済的利益供与に該当しないか確認する
- 社内決裁、寄附申込、受領証、申告書類を整える
観光関連企業の場合、寄附の目的は「観光地との関係強化」だけでなく、「地域の観光資源を守る」「持続可能な観光を支援する」「文化や景観の保全に貢献する」といった形で整理すると、制度の趣旨に沿った説明がしやすくなります。
まとめ
企業版ふるさと納税は、税負担を軽減しながら、自治体の地方創生事業を応援できる制度です。
旅行業や観光関連企業にとっては、観光地の自治体との関係性を深め、地域の観光振興や文化・景観の保全を支援するきっかけにもなります。
ただし、寄附はあくまで寄附であり、営業上の見返りや取引上の便宜を受けるための支払いではありません。自治体との関係強化を目的にする場合でも、経済的利益供与に該当しないよう、寄附の目的や社内説明を慎重に整理する必要があります。
また、最大約9割の税負担軽減という効果も、会社の利益や税額によって変わります。寄附額を決める前に、納税予測、控除上限、資金繰りを確認することが重要です。
企業版ふるさと納税は、単なる節税策ではなく、会社としてどの地域を応援し、どのような社会的役割を果たすのかを示す制度です。中小企業においても、税務と経営判断の両面から検討することが大切です。
藁総合会計事務所へのご相談
藁総合会計事務所では、中小企業の税務、決算対策、資金繰り、寄附金税制、企業版ふるさと納税の活用に関するご相談を承っています。
企業版ふるさと納税は、税額控除の効果だけでなく、寄附先の選定、資金繰り、自治体との関係性、経済的利益供与の有無など、実務上の確認ポイントが多い制度です。
寄附を検討されている場合には、決算前に納税予測を行い、制度の対象になるか、どの程度の税効果が見込めるかを事前に確認することをおすすめします。
参考資料
- 内閣府 地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税ポータルサイト」
- 内閣府 地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税について」
- 内閣府 地方創生推進事務局「令和7年度税制改正 企業版ふるさと納税の延長」
- 京都市「企業版ふるさと納税について」